中小企業を取り巻くリスクと新型コロナウイルス感染症の影響2020年版中小企業白書を読み解く(1)(1/6 ページ)

中小企業の現状を示す「2020年版中小企業白書」だが、本連載ではこの中小企業白書を基に、中小製造業も含めた中小企業にとっての「付加価値」の創出の重要性や具体的な取り組みについて3回に分けて考察する。第1回は中小企業の現状や、新型コロナウイルス感染症が中小企業にもたらした影響について確認する。

» 2020年10月05日 11時00分 公開
[長島清香MONOist]

 経済産業省 中小企業庁は2020年4月に「2020年版 中小企業白書」(以下、中小企業白書2020)」を公表した。「中小企業白書」は、中小企業基本法に基づく年次報告で、2020年版で57回目となる。

 中小企業白書2020における「中小企業」とは、中小企業基本法第2条第1項の規定に基づく「中小企業者」をいう。製造業においては具体的に「資本金が3億円以下であること」「常時雇用する従業員が300人以下であること」のいずれかの条件を満たす企業を指す(ただし、ゴム製品製造業については資本金が3億円以下、または常時雇用する従業員が900人以下)。なかでも、常時雇用する従業員が20人以下の場合は「小規模企業者」に区分される。2016年の調査によれば、中小企業数は日本の全企業の99.7%を占めており、中小企業の従業者は全体の約70%を占めている。また、中小企業の付加価値は全体の約53%を占めている。

photo 図1:中小企業基本法上の中小企業の定義(クリックで拡大)出典:中小企業白書2020
photo 図2:全企業の中で中小企業が占める割合(クリックで拡大)出典:中小企業白書2020

 中小企業白書2020では、中小企業・小規模事業者に期待される「役割」や「機能」を明らかにしたうえで、経済的な「付加価値」の増大や、地域の安定・雇用維持に資する取り組みを調査・分析している。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響や、中小企業・小規模事業者の具体的な対応事例などについても紹介している。

 本連載では中小企業白書2020を基に、中小製造業も含めた中小企業にとっての「付加価値」の創出・獲得の重要性や具体的な取り組みについて3回に分けて考察する。第1回は中小企業の現状や、新型コロナウイルス感染症が中小企業にもたらした影響について確認する。なお、新型コロナウイルス感染症関連部分については中小企業白書2020公表直前の、4月1日時点での情報である。

日本経済の景況感は横ばいから低下傾向

 まず始めに、日本経済の動向について概観したい。実質GDP成長率の推移を確認すると、2019年の年間成長率は0.7%となり、2018年を上回った(図3)。2019年の動きについては、公需が経済を下支えする一方で、消費税率引上げに伴う一定程度の駆け込み需要の反動減や、台風や暖冬の影響などにより第4四半期は民需が弱い動きとなったため、5四半期ぶりのマイナスとなっている。

photo 図3:実質GDP成長率の推移(クリックで拡大)出典:中小企業白書2020

 企業の景況感について、日本銀行「全国企業短観経済観測調査」(以下、日銀短観)の業況判断DIの推移を確認すると、製造業・非製造業ともにリーマンショック以降、回復基調が続いていたが、2018年以降は横ばいから低下傾向で推移している(図4)。また、製造業については特に落ち込みが大きく、2019年の第4四半期は2013年以来のマイナスとなった。

photo 図4:業種別の業況判断DIの推移(クリックで拡大)出典:中小企業白書2020
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