松尾氏はディープラーニングの最近のトレンドについても紹介した。このところ最も注目されているのは自然言語処理で、そのきっかけとなったのは大きな成果を上げた「BERT(バート)」という手法である。BERTは、トレーニング中の並列化を容易にするため、より大きなデータセットでのトレーニングを可能にする「Transformer(トランスフォーマー)」という機械学習モデルによって開発につながった。
TransformerはRNN(回帰型ニューラルネットワーク)構造を使用しないアテンション(Attention)技術から作られたもので、アテンション機構だけでアテンション付きのRNNに匹敵するパフォーマンスが得られる。さらに、「自己教師あり学習(Self-Supervised Learning)」についても触れた。松尾氏は、自己教師あり学習について「画像の一部を隠したところから元の画像を復元せよという目隠し問題の場合、隠した画像を復元するには、(その画像が家の場合)窓の形や、壁の色は変わらないケースが多いという知識を分かっておく必要がある。このように学習する画像の背後にある構造を理解しておかないと、答えが出てこない。目隠しする前のデータを教師データとして使い、この背後の構造をうまく学習することで、精度が向上する」と解説する。
自然言語処理におけるTransformer機械学習モデルの開発状況では、米国のAIを研究する非営利団体OpenAIが作成した、GPT-3(Generative Pre-Training3)について言及した。GPT-3は巨大なモデルで学習させており、パラメータの数は1750億個含まれ、GPT-2(パラメータ数15億個)より2桁大きい。GPT-3の進展により、法務、人事、調達、交渉、調整など多くのタスクが可能になることが見込まれている。
DXにおいてAI技術はかなり重要な役割を担うとみられている。AIが用いられないDXでは、例えば典型的なものとして、POS⇒分析⇒人間がマーケティングを行う、という従来型のプロセスにとどまってしまう。ところがAI、特にディープラーニングにより、インプット側、処理、アウトプット側のそれぞれで大きく選択肢が増え、しかも随時、技術的な進展が予想され、そのたびに新たなビジネスチャンスが生まれることになる。
さらに、今後について松尾氏は「単純化して言うと、人とモノの全てにIDが付与される。全てのデータベースがつながり、それらが自動化されていく。それにより、サプライサイドとデマンドサイドが近くなる。結果的に顧客にとっては、早くなる、安くなる、パーソナライズされ満足度が高まる、新しいサービスを受けることができ、新しい価値観が生まれる、などの進展がそれぞれの業界で起こることが予想される」と述べ、AIによってDXで得られるメリットに期待を込めた。
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