生産設備から社会インフラ、各種災害対策まで「メンテナンス」「レジリエンス」に関する最新の製品や技術、サービスを一堂に集めた展示会「メンテナンス・レジリエンスTOKYO2018」(2018年7月18〜20日、東京ビッグサイト)の特別講演に東京大学大学院 工学系研究科 特任准教授の松尾豊氏が登壇。「AIの発達によりわれわれの生活・産業がどのように変わるのか」をテーマにディープラーニング研究の重要性について紹介した。
生産設備から社会インフラ、各種災害対策まで「メンテナンス」「レジリエンス」に関する最新の製品や技術、サービスを一堂に集めた展示会「メンテナンス・レジリエンスTOKYO2018」(2018年7月18〜20日、東京ビッグサイト)の特別講演に東京大学大学院 工学系研究科 特任准教授の松尾豊氏が登壇。「AI(人工知能)の発達によりわれわれの生活・産業がどのように変わるのか」をテーマにディープラーニング研究の重要性について紹介した。
人工知能(AI)という言葉で指されるものとしては現在「大きく3つに分かれる」と松尾氏は指摘する。1つ目はIT系の従来技術の組み合わせで、これは以前からあるIT技術の擬人化にあたる。フィンテック、IoT(モノのインターネット)、RPA(ロボッティックプロセスオートメーション)などの技術である。
2つ目はマシンラーニング(機械学習)系技術で、機械学習や自然言語処理を中心とする技術だ。これには、ビッグデータ分析、Web関連の分析、コールセンターのサポート、与信の支援などで使われている。IBMの「Watson」、日立製作所の「H」、NECの「the WISE」、富士通の「Zinrai」など「情報通信会社のAI関連テクノロジーなども大部分がこのマシンラーニングに含まれるものが多い」と松尾氏は語る。
3つ目がディープラーニング(深層学習)系技術である。「これが実際に活用されているのは“眼”の技術が中心で、画像処理と機械やロボットの融合を進められることに最大の魅力がある」と松尾氏はいう。例えば、Googleの「AlphaGo」や医療画像の診断、自動運転などが挙げられる。2012年ごろから一気に盛り上がってきた技術で「日本の製造業との融合に大きなチャンスがある分野だ」と松尾氏は述べる。
ただ、松尾氏は「メディアなどで取り上げられるAIにはこの3つが混在して、取り上げられている場合が多く、どの技術をどういう形で組み合わせているのかという点などを注意深く見ないといけない」と語っている。
このうち現在、人工知能関連技術として大きなブレークスルーを果たす役割を担っているのがディープラーニング技術である。「ディープラーニング技術は、入力を出力に写像するために、簡単な関数の組み合わせで表現力の高い関数(深い関数)を作り、そのパラメータをデータから推定する方法」(松尾氏)であり、途中の階層には、入力を変換した「特徴量」が学習されている。
ディープラーニングでできることは以下の3つだとされている。
「この3つが順番にできるようになっていく技術がディープラーニングだ」と松尾氏は強調する。
画像認識は昔からある技術だが、コンピュータとっては非常に難しいものだった。例えば、製造工程において製品が良品か不良品か判別するのは、人間にはたやすいが、コンピュータには容易ではない。それがディープラーニングの登場で画像認識のエラー率を大幅に低減することに成功した。ディープラーニング登場以前は25.7%だったものが、2017年には2.3%となり、今では人間のエラー率5.1%と比べてはるかに精度が高くなっている(人間の精度を越えたのは2015年)。
松尾氏は「今のディープラーニングを使った画像認識は人間が追い付かないレベルとなっている。こうした動きはここ5年の間に起こった」とその急激な進化を指摘。さらに「ディープラーニングはこのように大変重要で、大きな変革をもたらす可能性があることから、世界中の企業が、ベンチャーを含めて取り組んでいる。しかし、日本(の企業)はあまりやっていない。これに非常に危機感を持っている」と訴えた。そして、試行錯誤で部品の取り付けを習熟するロボットの開発や、試行錯誤でピッキングが上達するロボットの開発など、画像認識とディープラーニングを用いることで、可能となった機器群を紹介した。
また、翻訳でもGoogle翻訳が2016年にディープラーニング方式を採用したことで一気にレベルが向上したという。またマイクロソフトの機械翻訳の品質は、英語から中国語の翻訳の場合、以前は人間と比べてかなり差があったが、2018年3月には人間と同じレベルを達成したと発表しているという。
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