MONOist 実際に生産DXとしてどのような取り組みを進めていますか。また、どのような点で苦労していますか。
竹本氏 本来は現場の困りごとを先述した自動化、ICT、データサイエンスを使って解決するというのが目的だが、データを活用するということが目的となってしまい時間がかかりすぎる課題があった。「データ」を基軸に考えるとテーマ設計(価値創出方法)ができない。そこで、現場課題のなぜなぜ分析を行い、その中でデータを活用すれば解決できる部分がないかという順番に切り替えた。
この順番に切り替えたことでさまざまなテーマを生み出せるようになった。イレギュラーの生産停止要因の把握や、不具合の予測や未然防止など、現場課題を基軸にさまざまな取り組みが現在進んでいるところだ。
例えば、金型で発生した不具合データと作業記録を収集しメンテナンス周期と不具合の内容分析を行い、データを基にした計画保全へと転換。突発的な金型故障を抑え、メンテナンス周期を伸ばすことでメンテナンス回数を削減しダウンタイムを30%削減できた。また、連続稼働を行うプレス機からM2Mでデータ収集し、金型のゆがみを数値化しリアルタイム監視を行う仕組みを構築した。工程異常発生時の金型ゆがみデータを確認し、閾値監視とアラートにより不良対策を行う。このリアルタイム監視により、不良率の減少や金型のダメージ低減が行えたため、加工ロスを100分の1に減らすことができた。こうしたさまざまな事例がさまざまな工場で生まれている。
これらの取り組みは、現場実務者と分析プロフェッショナル、推進リーダーの三位一体体制で進めている点がポイントだ。現場の困りごとを起点とするために現場の実務者の知見は必須となる。また、データ分析のプロフェッショナルももちろん必要だが、さらにこれらのデータの分析問題に翻訳し言語化していく必要がある。この橋渡しとして推進役が加わる形だ。これらの三位一体で、定型化された課題解決の仕組みは「プロセス=虎の巻」としてグローバルの生産拠点で共有し、相互に活用できる仕組みを整えている。現在、既にこの「虎の巻」は約50が登録されており、2021年度も20〜30が新たに加わる予定だ。
また、これらで得られたデータを経営指標などとの関係性をベースに指標化し一元表示する生産コックピットとして展開する他、現場データを製品開発に活用して品質向上を進める取り組みなどにも着手している。これらのベースとなるPLMシステムを刷新し、設計BOMや生産BOMを統合する動きなども進めている。
将来的には自社実践で得た生産領域における課題解決モデルのパッケージ化を進め、サプライヤーにも展開することを考えている。コニカミノルタでは以前からサプライヤーをパートナーと位置付け、共に成長するためにサプライヤーの現場に入り込んで品質や納期、コスト、環境対応、財務リスク軽減の5つの分野でコラボレーションを推進してきた。生産DXについても同様に、サプライヤーとのパートナーシップで進めることで両者にとってメリットのある形で原価低減や品質向上につなげていく方針だ。
MONOist 新たに稼働した三河新工場では、これらの生産DXへの取り組みをどのように取り入れていますか。
竹本氏 三河新工場は、多品種、小ロット生産を中心としデジタル化と現場力の融合によるモノづくり力強化を推進し、それをグローバルの生産拠点やサプライヤーへ展開するマザー機能を担う。最先端の自動化設備を導入するとともに、データ活用の仕組みを組み込み、多品種、小ロットながら、自動化や高効率生産が実現できる仕組みとしていることが特徴だ。また、開発、生産、現場が一体となった取り組み体制なども構築している。
コニカミノルタでは、グローバル各拠点で生産革新の取り組みを進めており、中国拠点などでも人材教育やシステム構築などで高い生産性を維持しているが、2014年にはマレーシアでICTや自動化、ロボティクスを取り入れた工場を構築。三河新工場では、これらのノウハウに加え日本のモノづくりにおける現場力、先進のデジタル技術を取り入れ、新たなモノづくりの在り方を実証する場とする。日本で得られたノウハウを核として、全世界の各工場に展開していくような形を実現したい。
MONOist モノづくりの在り方が大きく変化する中、将来的にどのような姿を描いていますか。
竹本氏 モノづくりの長期ビジョンを出す際にステートメントとして「想いを繋ぎ、笑顔と感動を創造するモノづくり」というのを掲げた。社会環境とビジネスそのものは変化していくが、わわれわれが製造業としてモノを通じて届ける価値が顧客の喜びにつながっていくということは変わらない。
また、モノづくりそのものも変化するが、モノづくりを通じて得られるDNAのようなものは変わらない。そして、世界中のモノづくり企業に共通のものがある。この共通のモノづくりDNAを持つ製造業が、一緒に前に進めるように、利他として貢献するモチベーションを持ってつないでいきたい。
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