パナソニックは、2021年4月に新CEOに就任した楠見雄規氏が経営方針を発表。「理想の社会」の実現に向け改善を進める企業としての基本姿勢を強調し、地球環境問題に積極的に取り組み、2030年に全事業会社でのCO2排出量ゼロ化を目指す。また、「専鋭化」に向け2年間は全事業の競争力に全力を注ぐ考えを示した。
パナソニックは2021年5月27日、2021年4月に新CEOに就任した楠見雄規氏が経営方針を発表。「理想の社会」の実現に向け改善を進める企業としての基本姿勢を強調し、地球環境問題に積極的に取り組み、2030年に全事業会社でのCO2排出量ゼロ化を目指す。また、“専鋭化”に向け2年間は全事業の競争力に全力を注ぐ考えを示した。
パナソニックでは2021年4月に楠見雄規氏が新CEOに就任。2022年4月には持ち株会社制への移行も発表しており、体制の転換期を迎えている。新体制における具体的な戦略についてはこの持ち株会社制移行後に発表予定としているが、今回は新CEOとしての基本的な考え方と方向性を示した。
パナソニックとして目指すべき方向性について楠見氏は、創業者である松下幸之助氏が示した「水道哲学」「物心一如」という考え方をひもとき「前近代的なものではなく現在にも通じる考えだ」ということを強調した。
楠見氏は「水道哲学はよく知られているが、その前提として『物心一如』という考えがある。これは『精神的な安定と物資の無尽蔵な供給が相まってはじめて人生の幸福が安定する』という考えで現代にも通じるものだ。先進諸国はモノとしては豊かになり不便が減ったが、精神の安定を得られたかということ必ずしもそうではない。不安や孤独、環境破壊、天然資源の枯渇など、多くの課題が山積している。従来は豊かさを届ける上でモノを届けることを中心としたが、理想の社会を追求する道からは少しそれてしまっていた。今の道から本来進む道へと正していくことが求められる。企業として、心もモノも豊かな理想の社会の実現に向け、現在と未来の不安を払拭する役割を担うことがパナソニックらしさだ」と考えを述べた。
こうした「物心一如」に向けた取り組みを象徴するのが地球温暖化対策を含む、地球環境問題に対する取り組みである。パナソニックでは環境ビジョン2050として、パナソニックグループが関わる全事業活動を対象に、2050年にはエネルギー創出量が使用量を上回る状況を目指している。そのマイルストーンとして、省エネ化、再生可能エネルギーの利活用拡大、再生可能エネルギー調達などで、2030年までに全事業会社でCO2排出量の実質ゼロ化を目指している。楠見氏は「気候変動問題を解決するリーディングカンパニーを目指す」としている。
ただ、新しい方向性による成果が形になるのはまだ先で「2年間は全事業で競争力強化に集中する」(楠見氏)とする。楠見氏は「競争力」を形作るものとして「戦略」と「オペレーション力」を位置付ける。「戦略は、どのようなターゲット顧客を設定し、差別化を図り、キャッシュを獲得するかという勝ち筋を構築することだ。一方、オペレーション力は、開発や企画、サプライチェーンなどあらゆる現場で無駄や滞留を撲滅し、高効率を実現することだ」と楠見氏は語る。
パナソニックでもオペレーション力強化には過去から取り組んできたが「改善が足りなかったというわけではなく、それをもっと高い次元で風土としていく。パナソニックでは目指す利益が出ていれば改善が止まっているケースが見られる。改善を日々磨いていく形になっていない場合がある。自動車分野を担当してきた経験からトヨタ自動車の改善への取り組みなども身近に見てきたが、風土として定着し改善に次ぐ改善を進めており、こうした姿勢は見習わなければならない」と楠見氏は訴えた。
こうした「戦略」と「オペレーション力」の両面を強化し「競争力」獲得を進める取り組みの例として、2021年4月に買収を発表したブルーヨンダー(Blue Yonder)と進めるサプライチェーン改革ソリューションや、車載や蓄電池システムへの展開を進めるエナジー事業などを挙げた。
楠見氏は「まずなすべきは経営理念に立ち返って『理想の社会』実現に向けて取り組む姿勢を取り戻すことだ。目標数値で満足するのではなく、高い理想で改善を進めていく。2年間は競争力強化に集中するが、特に2021年度はオペレーション力強化に取り組むつもりだ」と語っている。
また、前任CEOである津賀一宏氏は「パナソニックはくらしアップデート業を目指す」ということを語っていたが、これに対しては「掲げたものを変えるつもりはない。進化させるとしたらどういう姿になるのかという点で、新たな言葉を発信するのではなく具現化するフェーズだと考えている。パナソニックの事業会社が多岐にわたる中、くらしアップデートという言葉で表現できるものもあればそうではないものもある。方向性は『未来の社会に貢献する存在を目指す』ということで、それをより強く打ち出していく」と楠見氏は考えを述べている。
2022年4月に移行を目指す持株会社制については「具体的な施策は決まっていないが“専鋭化”の主役は事業会社となる。そういう意味では事業会社制と呼びたい。事業会社やその下の事業部での活動を支援する。これらが自主責任経営を徹底することでスピードを早くできるようにする」と楠見氏は語っている。
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