実際にある医療機器メーカー向けでは、クリーンルーム内の環境検査用にモバイルマニピュレーターの導入を行った。ただ、実際に取り組みを進める中では苦労も大きかったという。従来は、クリーンルーム内の環境検査では、人が検査機器を持ち運び、以下のような作業を繰り返していた。
これらの作業を全てモバイルマニピュレータで代替したが、難しかった点がクリーンルーム内のスペースが限られている点だったという。「開発には半年くらいかかった。検査機器は人が扱っていたものをそのまま使用する必要があり、まずモバイルマニピュレーター上にそのまま搭載するためにどういう配置が最適かを考える必要があった。さらに、クリーンルームは作業スペースが限られ、人が行き来する環境でもあるため、モバイルマニピュレーター上のロボットアームが作業を行う際に、作業空間として腕を広げるような作業を行うことはできない。モバイルマニピュレーター上の空間からできるだけはみ出さないように作業を行う必要があった。その動作などを作り込んだ」と安藤氏は語っている。
また、モバイルマニピュレーターではさまざまな動作や判断をロボットが自律的に行う必要があるが、作業と判断をエッジのロボット側と上位のシステム側に切り分けることで、システムとしての柔軟性を確保している。具体的には、ロボット側には基本的な動作のパターンをプログラムしておき、上位システムが作業現場のセンシングデータなどをトリガーとして、ロボット側に動作パターンの組み合わせを指示する形となっている。これにより、システム全体としての負荷を低減できる他、ロボット台数の増加などにも柔軟に対応できる。「ドローン事業などで培った実績を生かすことができている」(安藤氏)。
協働ロボットでは「使いどころが難しい」という声もあるが、安藤氏は「1台で1人の作業を代替できるとは思わない方がよい。一人前ではなく0.5人だと考える。その上で『人作業でない方が望ましいところ』を考えて、導入を検討していくと使いどころが見えてくる。人の作業を楽にするものだという発想で使っていくことがポイントだ」と語っている。
現在はコロナ禍により三密回避などでのロボット導入ニーズが高まっているが「現状では1台や2台などの検証用途が多い。将来的にはモバイルマニピュレーターが複数台同時で動けるところを提案していきたい。中国などではモバイルマニピュレーターを数十台使い、人のいない工場を目指す動きなども既に具体化しつつある。こうした世界を提案していきたい」と安藤氏は今後の取り組みについて述べている。
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