2020年度からは本格的に「ファクトリーサイエンティスト養成講座」を実施。工場で実際にセンサーからサーバにデータを上げ、それをビジュアル化して何らかの知見を導き出すというIoTの一連のデータ活用サイクルを実際に簡易なシステム構築を行うことで、取り組みのポイントを理解する。具体的には1週目でローカル側のシステム基礎、2週目でサーバ側システムの基礎、3週目でデータの加工とビジュアライゼーション、4週目で見える化・見せる化のさらなる追求、5週目で最終プレゼンテーションを行うというカリキュラムを用意している。
システムの構築については、プログラミング技術などがハードルになるが、基本的な仕組みを理解することが目的であるため、マイクロソフトの一連のアプリケーションを活用することで、基本的にはノーコードでの開発が行えるようにしているという。
大坪氏は「受講者は中小製造業の現場の技術者を想定していたが、実際には大企業から参加する人も多い。また、製造業とは関係のない銀行員や流通などジャンルを超えた参加などもある。2030年までに累計で4万人のファクトリーサイエンティストが活動するような世界を目指している」と目標について語っている。
一方、長島氏は経営コンサルタントとしての長年の経験を踏まえ、中小製造業の今後の在り方という視点で、ファクトリーサイエンティストの価値について語る。「ファクトリーサイエンティストは『工場の稼ぐ力を高める科学者』だと考えている。活躍の場も工場から企業全体へと大きく広がっていくだろう」と長島氏は考えを述べる。
ファクトリーサイエンティストとしての活動で得られる価値としては長島氏は以下の3つの特徴を挙げている。
「ファクトリーサイエンティストとして自ら手を動かし、センサーやクラウド、分析などの原理原則を学ぶことができるため、本質的な仕組みが理解できる。また、これらを活用することで、人がやる必要がないことをデジタル技術で代替するという発想が生まれる。1つ1つは小さな時間かもしれないが、これらを積み重ねることで、新たな挑戦を行えるようなまとまった時間を作り出すことができる。さらにこうした企画を進める構造そのものが1つの事業と同様の起案、実装、報告という仕組みを持っている。ある意味で事業創出の実戦経験へとつながる」と長島氏は意義について語っている。
さらに長島氏は、デジタル技術を活用して生み出した時間を従来付き合いのなかった異業種やデザイナー、ベンチャーとの出会いに使うべきだと主張する。
「中小製造業の生きる道として、現在付き合いのある顧客は、主にメーカーでこれらは技術に詳しい顧客だ。当然これらの顧客も重要だが、社会課題が多様化する中で、実は技術に詳しくない人々でもさまざまな課題とそれを解決するための手段を求めている。これらの“技術に詳しくない顧客”との新たな関係を作ることで、従来にない新しい価値を作り出すことができ、既存の取引関係に縛られない新たな関係を構築することができる」と長島氏は語っている。
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