Armが最新アーキテクチャとなる「Armv9」を発表。日本のスーパーコンピュータ「富岳」向けに追加した拡張機能「SVE」をベースに開発した「SVE2」により機械学習やデジタル信号処理(DSP)の性能を大幅に向上するとともに、よりセキュアなコンピューティングを実現する「Arm Confidential Compute Architecture(CCA)」を導入するなどしている。
Armは2021年3月30日(現地時間)、最新アーキテクチャとなる「Armv9」を発表した。日本のスーパーコンピュータ「富岳」向けに追加した拡張機能「SVE(Scalable Vector Extension)」をベースに開発した「SVE2」により機械学習やデジタル信号処理(DSP)の性能を大幅に向上するとともに、よりセキュアなコンピューティングを実現する「Arm Confidential Compute Architecture(以下、CCA)」を導入するなどしている。具体的な命令セットとしては、アプリケーションプロセッサ向けの「Armv9-A」から展開する計画。Armv9を採用した製品は2021年内に発表される見通しだ。
Armの新アーキテクチャの発表は、64ビット化を果たした「Armv8」から約10年ぶりとなる。Armv8でも、大枠のアーキテクチャとしての発表から、アプリケーションプロセッサ向けの「Armv8-A」、リアルタイムプロセッサ向けの「Armv8-R」、マイコン向けの「Armv8-M」など、この10年間で順次命令セットを拡充してきた。Armv9も今後の10年間を見据えて開発されている。
Armv8発表からの約10年間で、Armのビジネスは大きく拡大した。2010年時点でArmの技術を搭載するICの累積出荷数は240億個にすぎなかったが、2020年には1800億個に達した。スマートフォンを中心とするモバイル機器だけでなく、マイコン市場でも着実にシェアを拡大してきたことが大きな要因で、2021年には2000億個を突破し、2025年には3000億個に到達する見込みだ。Arm シニアバイスプレジデント チーフアーキテクト兼フェローのリチャード・グリセンスウェイト(Richard Grisenthwaite)氏は「今後は、さまざまなハードウェアがやりとりするデータのライフサイクルには必ずArmのプロセッサが関わることになるだろう。Armv9は、来たるべき次の3000億個の最先端Armベースチップを支えるためのものだ」と語る。
Armベースチップを採用する機器の種類もIoT(モノのインターネット)から、モバイル機器、家電、サーバ、自動車、通信機器など広がっている。それぞれの機器が求めるコンピューティングリソースに最適なCPUやGPU、AI(人工知能)アクセラレータとして用いるNPU(Neural Processing Unit)の組み合わせもさまざまだ。「特に機械学習については、CPUやGPU、NPUそれぞれ単一のソリューションではカバーできない。CPU、GPU、NPUを全て開発してきたArmだからこそ、これからの機械学習に対する需要を満たせるだろう」(グリセンスウェイト氏)という。
Armv9では、CPUにおける機械学習とDSPの性能を強化するためSVE2を採用することを決めた。SVE2は、富岳のプロセッサ「A64FX」の開発に向けてArmと富士通が共同開発したSVEがベースになっている。グリセンスウェイト氏は「SVEはHPC向けを前提としていたが、SVE2はさまざまなDSPのデータタイプに対応できるようになっている。マトリックス演算機能も大幅に強化するので、AI処理性能も向上できる」と説明する。
また、ArmのCPU性能はArmv8の中で格段に進化を遂げてきた。例えば、モバイル機器向けプロセッサであれば、2020年発表の「Cortex-X1」のピーク処理性能は、2016年発表の「Cortex-A73」と比べて2.5倍となっている。Armv9でもCPU性能の向上は継続していく計画で、モバイル機器向けとサーバなどインフラ機器向けは次の2世代で30%以上の性能向上を図るとしている。
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