一方、操船する側から見たeE-NaviPlanの導入効果には何があるだろうか。さるびあ丸船長の石井孝仁氏は「船乗りは経験の積み重ねで気象や海象の影響を予測するが、eE-NaviPlanを導入したことで、経験では分からなかった気象や海象の傾向を知ることができた」と語る。以前、燃料消費量を抑制するには船長と航海士の経験をベースにした勘で機関の回転数を落とすしかなく、気象と海象に関する情報は風向風速とブリッジから観測する波高からしか判断ができなかったが、eE-NaviPlan導入後は潮流も含めた最新の予測情報から割り出された機関回転数に合わせればよくなったという。
ただ、機関回転数を落として船の速度を遅くすると風や波の影響で船は揺れやすくなる。さるびあ丸は貨客船なので乗客のために乗り心地も重視しなければならない。石井船長は「10ノット以下にすると動揺が激しくなるのでそれ以下にはしたくない」という。実際の運用では気象と海象の条件が悪く動揺が激しくなるような場合は、船長の判断でeE-NaviPlanの提示した航海計画ではなく、船長の判断した航海計画を優先することにしている。冬になると気象と海象の条件は一層悪くなるが、この時期にどれだけeE-NaviPlanの航海計画を適用できるかを確認していく予定だ。
なお、2020年10月時点でeE-NaviPlanの航海計画は東京湾を出てから(法的には三浦半島の剱埼灯台と房総半島の洲崎灯台を結ぶ線を超えた海域)大島に至る海域で適用している。青木氏の説明では、大島から先の新島、式根島、神津島間航路も潮流が激しいが距離が短いので効果が出ないと考えられているのでeE-NaviPlanは適用していないという。
さるびあ丸では、就航した2020年6月からeE-NaviPlanの実運航における船舶推進性能の算出作業に取り掛かり、3カ月の作業を経て同年9月から実運用段階に入った。東海汽船では、その後も1年間にわたって実証実験を継続し、さるびあ丸で導入した新技術によってCO2排出がどの程度削減できたかを国交省と経産省に報告する予定だ。
なお、東京から三宅島を経由して八丈島まで結ぶ航路に就航している橘丸など既存の船にはeE-NaviPlanを導入していない(橘丸にもさるびあ丸に先立って最新船型やタンデムハイブリッド方式推進システムなど省エネ技術を採用している)。eE-NaviPlanを開発しているマリン・テクノロジストは航路が長い橘丸ではさるびあ丸以上に効果が出ると東海汽船に説明しており、東海汽船でもさるびあ丸の実証結果を見て導入を検討するとしている。
ただし、橘丸の航路の多くは公衆データ通信回線の圏外となることが懸案事項とされている。既存の衛星データ通信はコストが高く導入が現実的ではなく、ソフトバンクモバイルが2021年に導入を検討している格安衛星データ通信が実現するならそれを利用する可能性が高いとしている。
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