量子科学技術研究開発機構は、体内の酸化ストレス状態を可視化するため、強い蛍光を発する量子ドットとMRI造影剤を組み合わせた量子センサーを開発した。酸化状態と抗酸化状態の両方を捉える双方向センサーだ。
量子科学技術研究開発機構は2021年1月29日、体内の酸化ストレス状態を可視化するため、強い蛍光を発する量子ドットとMRI造影剤を組み合わせた量子センサーを開発したと発表した。酸化状態と抗酸化状態の両方を捉える双方向のセンサーで、ソフィア大学、ブルガリア科学技術アカデミーとの国際共同研究による成果だ。
この量子センサーは、直径約2nmの量子ドットの表面を生体に安全なシクロデキストリンでコーティングし、MRI造影剤として機能するニトロキシルラジカルと結合させて開発した。活性酸素が過剰な状態(酸化状態)では量子ドットの蛍光が消失(オフ)し、MRI信号は上昇(オン)になるため、酸化ストレス状態にあることを可視化できる。
一方、抗酸化状態(還元状態)になると、量子ドットが蛍光を発してオンの状態になり、MRI信号は低下する。
生体内での量子センサーの働きを確認するため、高コレステロール食によって酸化ストレスを生じているマウスに、量子センサーを投与してMRIで撮像した。その結果、健康なマウスに比べて、腎臓とその周囲の組織で長時間MRI信号が高い状態が維持され、酸化ストレス状態であることが確認できた。
酸化ストレスは、生活習慣や病気などが原因で活性酸素の産生が過剰になり、体内の抗酸化能とのバランスが崩れた状態を指す。今後、この量子センサーとMRI、蛍光イメージングを用いた酸化ストレス評価技術の研究開発を進めることで、発症前の段階で酸化ストレスが生じている部位を特定可能になる。これにより、がんや感染症、認知症など、さまざまな病気の予防や先制医療につながることが期待される。
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