生産や供給のボトルネックとなっているのは、ルネサスの自社工場よりも外部の委託先です。柴田氏は「物理的なキャパシティーの上限に達しており、これを今から増やしても、実際に生産量が増えるまでは長い期間がかかる。今年の上期、今年いっぱいくらいの時間軸でみても、物理的なキャパシティーを増やした効果は見通せない。ダウンタイムの短縮など少しずつの積み重ねでアウトプットを上げるしかない状況だ。中間在庫を増やすようにしていく」と話しています。
製品別では、SoC(System on Chip)では16nmプロセス、マイコンでは40nmプロセスの逼迫感が強いとしています。委託先はこうした最先端ではない世代に増産投資をしませんが、「少しでもキャパシティーを上げてもらうよう、協力してもらっている」(柴田氏)という状況です。
さらに、ルネサスが中長期的に自社生産を増やすのも困難な状況です。「中長期的な生産の方向性は変わらない。7nmプロセスや5nmプロセスの製品を自社で作るのは現実味はないので、ファウンドリーに出していく。自社で無理なく作れるものを作っていくというファブライトの戦略は変わらない。40nmプロセスについても、自社のキャパシティーは小さい。外から戻す余裕はない」(柴田氏)。
このように、供給を増やす取り組みにも繰り返し質問が寄せられましたが、多くの自動車関連企業が供給回復の時期として挙げる「今年の夏」とはリンクしない回答のように思いました。半導体が自動車に組み込まれるまで複雑なサプライチェーンがあるはずなので、そう単純に連動しないのかもしれません。経営のプロである方々が「今年の夏」というからには根拠もあるのでしょう。夏にどのように決着するか、注目です。
さて、今週公開した記事も紹介します。個人的にショックだったのは、NTNのインホイールモーターの事業化を凍結するというニュースです。社長交代の会見の中で、新社長に就任する取締役 代表執行役 執行役常務の鵜飼英一氏がそのことについて触れました。
インホイールモーターに関してはMONOistにはたくさんの記事を掲載してきました(関連リンク:インホイールモーターの記事一覧)。古いものでは、SIM-DriveのEV「SIM-LEI」について解説した2011年の記事があります。
インホイールモーターは車両のパッケージングの自由度を大幅に高めるだけでなく、ワイヤレス給電技術と組み合わせることでバッテリーの充電の在り方も変える可能性を持っています。ばね下重量が重くなることによるネガティブな要因を解消する技術の開発も進められていました。こうした動向に対する読者の皆さまの反応はとても良く、期待された技術なのではないかと受け止めていました。
しかし、NTNの新社長となる鵜飼氏は「これまで開発と提案を続けてきたが時期尚早だったかとみている。現在のEV(電気自動車)の主流は、車体にモーターを搭載しジョイントなどを使って車両を駆動する方式であり、インホイールモーターは競合メーカーも含めてなかなか進展しない状況にある。ただし、将来的には必要となる技術なので開発は続けていく」とコメントしました。
NTNは2018年に中国の新興自動車メーカー長春富晟汽車創新技術(FSAT)とライセンス契約を締結。FSATはNTNの技術支援を受けて2019年にインホイールモーターを採用したEVを量産し、2023年には年間30万台の生産を計画していましたが、これは順調に進んでいなかったようです。
インホイールモーターに似たEVのアプローチとしてはスケートボード型のシャシーがありますね。
無人運転車の使い方のコンセプトとして提案される、「車体はニーズに合わせてきめ細かく用意して、必要に応じて車体を載せ替えることでシャシーの稼働率を最大限に高める」というアイデアを実現するカギになる技術だと思っています。しかし、現在はこういった斬新な技術よりも、従来の延長にある技術をいかに磨くかという時期なのかもしれませんね……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.