―― キーボードも、すごくよくできていますね。本体に磁石でピタッとくっついてズレないとか、日本語配列ながら英語配列ユーザーでも問題なく使えるようなキーの取捨選択が的確です。またものすごく薄いのに、ちゃんとタクタイル感があるという。一般的なノートPCに内蔵されているキーボードって、これぐらいの薄さでしたっけ。
塚本 違いますね。内蔵キーボードよりも少し薄いです。理想的にはもうちょっと分厚い方がいいんですけど、どうしてもこの隙間に入れなきゃいけないというところから来ているので。薄いけどもベストなタクタイル感を出すってことで、結構苦労しましたね。
また面積も限られているので、ユーザーエクスペリエンスをやっているチームが各国のキーボードの使い方も見て。どれを捨ててどれを残すんだって、いろいろ苦渋の決断をしながら今のレイアウトになりました。
本体からワイヤレス充電もできるようにしたので、お客さまがあまり充電を意識せずに、知らないうちに充電されていつでもすぐ使えるというものになっています。
―― 脇のゴムリングも、地味にすごいことをしているなと。ここ、ペンを収納するところだと思うんですけど、磁石でくっついているキーボードをはがすときの取っ手にもなっている。
塚本 実はこの薄さのキーボードにゴムを取れないように組み付けるっていうのが結構大変だったんです。普通はもう少しゴツくなるところを、薄いのに強く引っ張っても抜けないという。これも実は日本のメーカー製の繊維なんですね。某有名アパレルさんとかの生地で使われているところの技術を使わせてもらって。そうじゃないと、こんなに薄く強くできなかったんです。
―― 本体裏側のスタンド部もいいですね。折り返し方が折り紙チックで、開くとちらっと赤が見えるという。で、開いたところに本体内部にアクセスできる部分が作ってある。
塚本 裏側の赤い部分は、人工皮革の「アルカンターラ」っていう素材ですね。これも日本のメーカーの技術がベースになっています。デザイナーが米国人なんですけれども、日本に来て一緒に仕事して、ここの素材どうしようかっていう時に、ちょっと高いけどこういうのどうかなって見せたら、「これだ!」って。触り心地もいいですし。
―― ペンも適度な太さがあってちゃんと六角形で、持ちやすいですね。
塚本 ペンもさらっと入っているんですけど、実はこのペンを使えるようにするのにめちゃくちゃ苦労しました。これも開発に5年かかっている技術の1つですね。
このペンは、画面とペンとの間の電気的な特性変化を使って描くんですけど、ある程度のギャップ(隙間)がないと難しいんですね。普通のLCDって、ペン先から画面本体まで1mmくらいのギャップがあるんですけど、X1 Foldの場合はもうμmレベルの薄さで全然ギャップがないんですよ。このため、ペンからの信号なのか画面のノイズなのかを切り分けるのがとても難しくて、最初はペンできちんと描くことができませんでした。
これもう根本的に考え方を変えなきゃいけないということで、これも実は日本のメーカーのワコムさんに協力していただきました。そのワコムさんでも最初は「あれー?」って、線が途切れちゃったりウニャウニャってなっちゃったり、何度も何度もうちのエンジニアとこういうパターンがいいんじゃないかとか実験して、ようやく描けるようになったんです。
サムスンのフォーダブルスマートフォンもペンをサポートしてないので、フォーダブルでペン対応はX1 Foldが世界初になると思います。
―― ただペンって、使う人と使わない人がはっきり分かれるデバイスですよね。絵は描かないからいらないよという人もいますし。
塚本 確かに、ペンはなくてもいいんじゃないか、という声もあったんです。われわれが開発しているThinkPadでもそのペンが使えるPCをたくさん出しているんですけども、意外に使ってもらえないんですよね。それはなぜかというと、斜めに立っている画面にペンで書くって自然じゃないんですよね。タブレットにもなる360度コンバーティブルタイプも、描こうとなるといちいちこうひっくり返して机に載せてから、ああやっぱり文章直さなきゃって元に戻したりすると、だんだん面倒くさくなってくる。
でもL字型で上下両方ディスプレイだと、上の方で会議画面を見ながら、下の方でメモするっていう、とても自然な使い方ができる。やっぱり新しい使い方、便利な使い方を感じていただく1つのものとして、ペンはこの製品にとっては重要だったと思います。
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