―― 製品コンセプトのお話に戻るんですが。折りたたんだときに表面にくるレザーが、高級な手帳っぽく見えるんですよ。これは何かを象徴していたりするんでしょうか。
塚本 最初のコンセプトでは、レザーはなかったんです。ただヒンジ部分がとても複雑な構造をしていまして、カバーがないと見た目的にとってもバルキーになるんですね。ちょっとそういうメカメカしい見た目にはしたくないというのが1つあります。
それから値段的にどうしてもお高いディスプレイ使っていますので、高級感がある見た目にしたいというところもありました。もともとターゲットとするお客さまには、あまりヘビーには使わないけれどもPCは必要で外に持ち歩くような、エグゼクティブの方々という想定もしていました。ペンも付いていることで、ちょっとした日記帳みたいなものとPCを融合させたいっていう意図もあります。
実はここにもう1つ意味があって。革のカバーの中に熱対策部品が入っています。このボディーって、(L字型にする際の)上側にCPUなどが入っていて熱くなるんですよ。下側はバッテリーなどが入っているんですが、最初のプロトタイプを使ったときに、片方が熱くて片方が冷たかったんですね。
「ブックモード」というスタイルで本を持つように持ったら、めちゃくちゃ気持ち悪かったんです。人間は片方熱くて片方冷たいと違和感を強く持つようです。これは熱を分散させないといけないということで、レザーのところを使って熱を逃がそうと。このカバーの中にグラファイトシートっていう熱を効率良く伝導するシートを入れることで、片方からもう片方へ自然に熱が逃げるようにしてあります。
―― ThinkPadって、「モバイル」と切っても切り離せないブランドだと思うんです。まさに究極のモバイルマシンが誕生したわけですが、このコロナ禍でモバイルを使う機会が減ってきているというところは否めないと思うんですが。
塚本 逆に新型コロナウイルスによる日常の変化で、家庭内で働くだけでなく、どこでも働く場所にできるようになりました。旅先だったり、ちょっとお茶しに行ったりしても、出先で会議したいときにどこでも仕事ができる土壌が整いつつあります。
つまりどこにいてもいいからオンライン会議に出て仕事すればいいじゃん、というフレキシブルに働く文化になるのかなと。そうした中でやはりこのX1 Foldを持ち歩いて、どこでもネットワークにつなげられて仕事ができる。仮にコロナ禍が収束して、外出ても問題ないですよってなったとしても、どこでも仕事していいですよ、という文化は残るんじゃないかと思うんですね。
そこでほんとに軽かったり、小さくて畳んで持ち運びやすかったり、5GにもLTEにもつなげられたりというような土壌作りっていうのを、ThinkPadとして提供していきたいという思いで開発しています。
これまでノートPCは、キーボードが分離したり、ディスプレイの後ろにぐるっと回ったり、あるいはAndroidタブレット端末と兼用になったりと、さまざまな方向性を模索してきた。PCがタブレット型になることで、何とかスマホ、タブレットなどのスマートOS勢の隙間に潜り込んで生き残ろうとしてきたわけだが、このコロナ禍でPCがテレワークの主力となり、オーソドックスなクラムシェル型がまた見直されたりしている。
X1 Foldは、タブレットとクラムシェルのハイブリッドのように見えるが、小さく持ち歩いて大きく使う、あるいは小さいままでも使うという、サイズが可変するPCである。発表時には、デュアルスクリーン対応の「Windows 10X」を搭載する予定だったが、OS開発の遅れからWindows 10のアプリケーションベースでデュアルスクリーンOS相当の動作を実現している。
これによって逆に、レノボが考えるフォーダブルPCのコンセプトに忠実なマシンが出来上がったともいえる。単にフォーダブルディスプレイ搭載PCの知見ができたというだけでなく、数多くの基礎技術が積み上がったことで、レノボだけでなくPC業界全体の新しい展開も見えてきた。
ディスプレイが曲がるという物珍しさではなく、PCのスクリーンサイズが可変するというメリットが正しく認知されれば、競争も起こり価格も下がってくるだろう。PCに新ジャンルをもたらすであろう技術革新の現場に、われわれは立ち会ったことになる。
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手掛けたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
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