スマートフォン向け、テレビ向け、ともに韓国勢に市場を押さえられている有機EL。かつては有機ELの開発に注力していた日本にとって、印刷方式の有機ELを世界で初めて実現し、量産も始めたJOLEDは最後の希望だ。小寺信良氏が、JOLEDの印刷方式有機ELの可能性と、今後の同社の展開を探る。
液晶ディスプレイを超えるダイナミックレンジと応答性を持つ自発光ディスプレイとして注目される有機ELディスプレイ。ただしその用途は、現時点ではスマートフォンとテレビに大きく二分されている。
スマートフォン用の6型前後の有機ELパネル供給最大手は、サムスンディスプレイ(Samsung Display)である。2017年発売の現行モデルに限定すれば、市場には17モデルの有機EL搭載スマートフォンが投入されており、全体からすればおよそ16%に当たる。今まさに、有機ELスマートフォンは、キャズムを超えようとしているところだ。
テレビ市場に目を移すと、テレビ向けの大型有機ELパネル供給最大手は、LGディスプレイ(LG Display)になる。2017年〜2018年5月の間に発売(もしくは発売予定)の有機ELテレビは14種類(サイズ違いを含む)だが、ほぼ全てがLGディスプレイの有機ELパネルを用いている。同期間に発売されたテレビ全体からすれば、およそ7.4%程度である。
つまり、有機ELパネルの製造は、スマホのサムスン、テレビのLGと、ほぼ韓国企業に押さえられたということになる。かつて日本でも有機ELパネル開発に力を入れたメーカーはあったが、問題点をクリアすることができず、量産化には至らなかった。
現在の有機ELパネルは、真空の環境でEL層を形成し部材を蒸着させる「蒸着法」で作られる。サムスンの場合は、RGBの各色で成膜させたいところに穴を空けたメタルマスクを用意して、1色ずつ部材を蒸着させていく「FMM-RGB蒸着法」となる。RGBが個別に発光するため発光効率に優れるが、製造法上、大型化が難しい。
LGが大型化を成し遂げられたのは、同じ蒸着法でも成膜方法を変えたからだ。「白色EL蒸着法」と呼ばれる手法では、RGBそれぞれをマスキングせずに、1層ずつ塗り重ねる。つまりサムソンが横方向に画素としてRGBを並べるのに対して、縦方向(厚み方向)にRGBを並べるイメージだ。
当然色が混じってしまうが、それをカラーフィルターを通して分光し、RGBWの4色で発光する。マスクで1画素ずつ塗り分けないため大型化が可能だが、積層した上にカラーフィルターを使うため、発光効率に難がある。またこの方式は、小型化が難しいとされている。
JOLEDは、かつて有機ELの研究開発を行っていたパナソニックとソニーの技術を統合、そこに液晶ディスプレイのジャパンディスプレイ(JDI)の技術も融合する形で2015年に誕生した、新しい会社である。これまでの有機ELパネルとは製造法が根本的に異なる方式で、2017年末から製品の出荷を開始した。
その方法が、部材を蒸着するのではなく「印刷」でRGB発光層を個別に作るという手法である。JOLEDが世界で初めて、この方法で製品化にこぎ着けた。今回は、この製造法のメリットから、狙うターゲットまで、詳しく話を伺うことにした。
お話しいただくのは、JOLED 製造技術開発部門シニアゼネラルマネージャーの後藤真志氏と、管理部門副部門長の加藤敦氏である。
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