ロボティクス型への“乗り換え”も増える、パワードアシストスーツの市場展望FAインタビュー(1/2 ページ)

コロナ禍で労働力不足や作業負担の増大が深刻化する物流現場。解決の鍵を握る技術として、一部の“イノベーティブ”な物流企業はパワーアシストスーツに目を向けている。パワーアシストスーツの市場普及をどのように見るか。2020年10月に既存の腰部分のアシスト危機に加えて、腕部分の補助を行う「ATOUN MODEL Y + kote」の実地実験を開始したATOUNの代表取締役社長に話を聞いた。

» 2021年01月05日 14時00分 公開
[池谷翼MONOist]

 現在、物流現場では労働力不足や作業負担の増大が深刻化している。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、物流倉庫で多く勤務していた外国人労働者の数が減少した一方で、コロナ禍でEコマース需要が伸びたことで扱う荷物の量自体が増加しているためだ。以前から労働力不足の問題は指摘されていたが、そこにコロナ禍が直撃し、さらに傷口が広がった格好だ。

 こうした状況下で、倉庫内従業員の作業負担軽減や作業効率化に取り組む企業も増えている。それらの企業から注目を集めているのが、着用者の作業をアシストするパワーアシストスーツの活用だ。ロボティクス技術やモーター、ゴム、ばねなどを用いて、ある程度の重量がある荷物の運搬や荷さばきなどの動作を補助する機器である。

 パワーアシストスーツを開発する国内メーカーの1社がATOUN(アトウン)だ。2018年には着用者の腰部分にかかる負担を軽減する“パワードウェア”「ATOUN MODEL Y(以下、MODEL Y)」をリリースし、さらに2020年10月には腕部分の負担を軽減する「ATOUN MODEL Y + kote(以下、+ kote)」の実証実験を開始したと発表した。

MODEL Yと+ koteを組み合わせた実地試験の様子*出典:ATOUN[クリックして拡大]

 パワーアシストスーツは現在、物流業界でどのような広まりを見せているのか。新製品である+ koteの反響や、今後の開発課題などと併せてATOUN 代表取締役社長の藤本弘道氏に話を聞いた。

ATOUN 代表取締役社長の藤本弘道氏*出典:ATOUN

“イノベーティブ”な企業を中心に広がる活用

MONOist 物流業界でのパワーアシストスーツ普及の程度について、どのように感じていますか。

藤本氏 パワーアシストスーツを用いて現場課題の解決に取り組む顧客は、ある程度イノベーティブな気質の企業が多い印象だ。そうした企業の中でも、当社の場合は、導入コストなどの問題から、中規模以上の企業が主な顧客となっていた。一方、当社のロボティクス技術を活用したパワーアシストスーツと異なり、当社が「パッシブタイプ」と呼ぶ、ゴムやばねを用いた他社製品にはより安価に導入できるものもある。

 従業員の業務負担軽減の手段としてパワーアシストスーツに注目した物流企業の中には、低コスト感に興味を引かれてパッシブタイプ製品を導入するケースも多い。一方で、パッシブタイプの他社製品から、当社製品への“乗り換え”を相談されるケースも最近では増えている。

 ちなみに、当社もパワーアシストスーツのリースを行うようになったので、以前より安価に顧客に導入してもらいやすくなっている。代理店経由での引き合いが主だが、地方銀行経由でリースの相談を受けることも多い。融資先の流通企業の企業価値を上げるための取り組みで、業務の作業負担を軽減して人材確保を容易にする狙いがあるようだ。

MONOist “乗り換え”が増えている、というのはどういうことでしょうか。

藤本氏 現在、パワーアシストスーツの開発メーカー各社が総じてプロモーションに力を入れており、それによって製品ジャンル全体の、ひいては当社製品の認知度も上がっている。その中で「パッシブタイプ」を利用していた顧客から問い合わせを受け、当社のロボティクス技術を活用したパワードスーツの効果を実感してもらうという機会が多くなっている。

MONOist パッシブタイプとはどのような違いがあるのでしょうか。

藤本氏 パッシブタイプの最大の利点は安価に導入できる点だ。その一方で、現場での「動き回りやすさ」が必ずしも考慮されていない製品が少なくない。

 例えば、バネを使用したタイプは押し込んだばねの反発力を利用して着用者をアシストする。こうした仕組みは一箇所にとどまって作業する内は良くアシストしてくれるが、実際の物流現場のように、短時間で何度も同じ動作が要求される場面では、ばねの反発力がかえって邪魔になってうまく補助の機能を果たせない。バネの力を弱めればその分動きやすくなるものの、今度はアシスト力が不足してしまう。

 一方で、センサーを搭載した当社製品は、着用者の体の動きを邪魔せずにアシストする。着用者の動作をセンシングして、荷上げ時や荷下げ時など腰が停止したタイミングで電源を一度切る。作業を再開したら自動的に体の動きを追従してサポートする。持ち上げて、運んで、下ろす。こうした一連の体の動きを邪魔しない点が評価されて、パッシブタイプを導入したものの実用面に不満がある企業からの“乗り換え”相談が増えている格好だ。

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