特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

ハイブランドの信頼を確保、プロ用音響ケーブルメーカーのスマート工場化スマート工場最前線(1/2 ページ)

プロ用オーディオケーブルブランド「MOGAMI」として地位を確立するモガミ電線。同社では生産工程でデジタル技術を活用し品質確保と向上に取り組んでいる。同社の現状とスマート工場化の取り組みについて紹介する。

» 2020年12月25日 12時00分 公開
[三島一孝MONOist]

 スマート工場化など工場でのデジタル技術の活用は、中小規模の製造業では難しいとみられるケースも多い。しかし、実際には規模の大きさにかかわらず多くの成果を生み出している企業は数多く存在する。

 その1つとして、プロ用オーディオケーブルを展開し、グローバルブランドとしての地位を確立しているモガミ電線がある。同社のオーディオケーブルは、放送局や音楽スタジオ、ライブイベントやコンサート用などのプロ用オーディオケーブルとして高い評価を受けており、さまざまなアーティストから評価を得ている。

 プロ用オーディオケーブルはニッチ市場だが高い品質が要求される。これを30人足らずのメンバーで設計、生産し、提供を続けている。その中で「品質」を安定的に確保するために進めているのが、スマート工場化である。モガミ電線の現状とスマート工場化への取り組みを紹介する。

photo モガミ電線の本社概観(クリックで拡大)出典:モガミ電線

プロ用オーディオケーブルで地位を確立

photo モガミ電線 代表取締役 中西一氏

 モガミ電線は1957年創業のケーブルメーカーである。もともとはさまざまなケーブルを製造していたが、ある時オーディオ評論家に「ケーブルで音が変わる」という話を聞き、開発したオーディオ用ケーブルが評価を受けたことからオーディオケーブルメーカーとしての地位を確立していった。同社の売上高は約9割がオーディオ用ケーブルとなっている。また、地域別では、4割強が米国向け、日本向けが3割弱、その他が欧州やアジアなどの市場向けという構成になっている。オーディオ用ケーブルの中では、マイク用ケーブルやギター用ケーブル、スピーカー用ケーブルなどが中心となっている。その他、ライブイベント用のステージボックスに接続するケーブルや、これらの操作に使うLANケーブルなども開発、製造している。

 ケーブルの製造方法は基本的には多くのケーブルメーカーで共通のものとなっている。しかし、業界や用途、目的によって、求められる特性は大きく異なり、それに合わせた形で最適化できるかどうかが市場で評価を受ける差別化のポイントとなっている。モガミ電線では「音の解像度に目を付け、さまざまな試験などを通じて差を数値化し、理論を構築していった」(モガミ電線 代表取締役 中西一氏)。これにより、さまざまなプロ向け市場で評価を受けるようになったという。

 特に米国市場では受け入れられ、多くのアーティストから指名が入るなど、プロ用オーディオケーブルブランドとしての評価を集めている。オーディオ用ケーブルとしての地位を確立した理由について、中西氏は「実際には『音が良くなる』ということだけでは、音の感じ方は個人差もあるので、よく分からないのが正直なところだ。ただ、モガミ電線として重視しているのが『解像度』という点だ。さらにそれを理論的に組み立てていくことができたことがポイントとなった」と語る。

COVID-19の影響でコンシューマー向け需要が拡大

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、ライブイベントなどが開催できずプロ用オーディオ市場そのものが厳しい状況が生まれている。ただ「イベント開催が難しいことからプロ用オーディオ市場が厳しいことは覚悟していたが、その一方で、家庭用需要が高まりコンシューマー向けの需要が伸びている。売上高も前年並みとはいかないが、想定した落ち込みよりは小さい状況だ」と中西氏は現状を語っている。

 同社の製品開発は、プロ用オーディオ市場という限られた市場向けを中心としているために、顧客からのフィードバックを受け、要望に直結した製品を開発している。今後に向けては「プロ用市場はどういう状況になるかはまだ見えないが、コロナ以前の傾向を見るとライブイベントそのものの需要は増えており、プロ用オーディオ系の市場も伸ばせる余地があったと見ている。また、長期を見れば無線化などもあり得るが、混線や断線などが致命的になるライブイベントなどでは当面は有線での需要が中心となり、プロ用オーディオケーブル需要は当面は続く」と中西氏は前向きな姿勢を示す。

 これらのプロ用オーディオケーブル市場での展開を引き続き進める一方で、プロ用オーディオケーブルでのノウハウや信頼性を生かしつつ「特注品」とする産業用機器向けのケーブルなども拡大していく方針だ。これは、2015年に親会社となったOKI電線との連携で進めていく。「産業用機器向けケーブルも顧客の声を聞き、それに合わせた製品を作る必要がある。信頼性という強みはあるが、要望を捉えるという点では、既に先行したノウハウを持つOKI電線と共同でヒアリングなどを進めていく。現状では売上高に占める割合も非常に小さいが、これらを伸ばし、バランスを取っていく」と中西氏は方向性について語っている。

 プロ用オーディオケーブルおよび産業用機器向けケーブルでの展開において、それぞれで重要になるのが「信頼性」となるが、モガミ電線ではモノづくりの工夫として、製造工程にデジタル技術を積極的に取り入れ、効率的にトレーサビリティーなど信頼性確保の取り組みを進めていることが特徴となっている。

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