産業機械の世界でもオープンソース化が進んでいるが、オープンソース技術は本当に産業用品質に耐えられるのだろうか――。こうした中、オープンソースCNCの実証を行ったのがベッコフオートメーションである。同社のオープンソースCNC実証の取り組みと狙いについて紹介する。
工作機械の作業性能や精度、効率性などに大きな影響を与えるのがCNC(Computerized Numerical Control)である。ただこうした環境でもオープンソース化の動きが広がりを見せ始めている。現在はオープンソースコミュニティーによる「オープンソースCNC」も数多く登場している。しかし、多くの企業が疑問を持つのが「こうしたオープンソースCNCは本当に工作機械を動かした場合、問題なく加工が行えるのだろうか」ということだ。
こうした疑問に対し2020年11月16〜27日の期間中にオンラインで開催されている「第30回 日本国際工作機械見本市(JIMTOF 2020 Online)」で、実際にマシニングセンタを使ってオープンソースCNCを稼働させたのがベッコフオートメーションである。オープンソースCNCの活用実証の取り組みとその狙いについて、開発を担当したベッコフオートメーション ソリューション・アプリケーション・エンジニアの高口順一氏に話を聞いた。
工作機械業界をはじめとする産業機械業界において、自社でコントローラー(制御装置)開発を行う場合の課題として、ハードウェア構成がすぐに古くなり数年ごとの再開発が必要になるという開発負担の重さや、旧世代製品のメンテナンスに工数がかかる点などが挙げられる。一方、ソフトウェアの開発についてもノウハウがないなど開発の難しくなっているケースが多い。こうした状況から、CNCそのものを外部調達するケースが多くなっているのが現状である。
しかし、こうした状況に対し「技術的な進歩がある中で、機械の性能の根幹でもあるCNCを全て外部調達に頼る形でよいのかという業界での課題感があった。負担軽くCNCを自社開発できることで、機械メーカーそのものが製品のバリエーションを増やすことが可能になり、これらの機械を使うユーザーが抱える新たな課題を解決できるかもしれない」と高口氏は語る。
そして、具体的な技術の進歩として、ハードウェアの開発負担については、産業用PCをベースとしたハードウェアプラットフォームの採用により軽減できることを訴える。一方で、ソフトウェア開発の負担については、オープンソースCNCの活用と既存ソースコードの活用で解決できるとする。
ただ、作業の精度が問われる産業用機械において、これらのプラットフォーム化やオープンソースソフトウェアの活用が本当に可能かどうかの疑問を持つ機械メーカーは非常に多い。実際に「異なるハードウェアに移植しても動かないかもしれない」「どこまでも開発工数がかかるかもしれない」「リアルタイム性能が満たせないかもしれない」などさまざまな疑問の声があった。
そこでベッコフオートメーションでは、こうした疑問の解消のために「まずやってみよう」と自社内でオープンソースCNCを実装したマシニングセンタを稼働させ、作業を行わせることにした。「本当はJIMTOF会場で実機を見せるつもりだったが、オンライン開催となったため開発をそのまま進めるか迷った。ただ、よいところまで実現できていたため、オンラインだが実証結果を披露した」と高口氏は語る。
実証は、オンボード型のオープンソースCNCを、ベッコフの産業用PCおよびPCベース制御技術「TwinCAT」上に移植し、マシニングセンタを制御して加工することを目指した。
オープンソースCNCは、GitHubでソースコードが公開され、GNU GPLでコード改変可能な「Smoothieware」を選んだ。専用ボード「Smoothieboard」との組み合わせで使用可能で、これらを組み合わせ、これらをベッコフオートメーションのPCベースコントローラー上に再実装する形をとった。「TwinCATには、C++をTwinCAT上で動かすことができるTwinCAT C/C++という機能がある。今回のオープンソースCNCはC++で書かれており、TwinCATの機能を使いながらリアルタイムでCNCによる制御を行える」と高口氏は述べている。
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