前述の通り、中小企業数は長期的に見て減少傾向にあるものの、2016年時点で日本の企業数のうち99%以上を占める存在であることは変わらない。そして、その姿も非常に多様である。中小企業白書2020では、中小企業や小規模事業者の「多様性」についてさまざまな面から考察している。
まず、中小企業の企業数、従業者数、付加価値額の内訳を業種別・規模別に確認する(図17)。企業数については、約9割が非製造業、1割が製造業で、製造業の中規模企業は全体の1.5%である。従業者数については、全体の約8割が非製造業であり、製造業は約2割となっている。企業数で76.0%と最も多くの割合を占めていた非製造業の小規模企業は、従業者数で見ると約3割となっている。付加価値額で見ると、全体の75.4%が非製造業であり、製造業は24.6%となっている。また、製造業と非製造とを合わせた中規模企業が生み出す付加価値額業合計は72.2%、小規模企業が生み出す付加価値額は27.8%となっている。
次に、資本金規模別の企業分布を業種別に確認すると、いずれの業種においても、資本金5000万円以下の企業および個人事業者が大半を占めていることが分かる(図18)。
中小企業白書2020では、これら多様な中小企業・小規模事業者に期待される役割や機能を「グローバル展開をする企業(グローバル型)」「サプライチェーンでの中核ポジションを確保する企業(サプライチェーン型)」「地域資源の活用等により立地地域外でも活動する企業(地域資源型)」「地域の生活・コミュニティーを下支えする企業(生活インフラ関連型)」の4つの類型に分類し考察している。
中小企業が目指す姿についてのアンケート結果を確認すると、全体として「生活インフラ関連型」と回答した企業が39.2%と最も多く、次いで「サプライチェーン型」が25.1%、「地域資源型」が13.8%、「グローバル型」が12.9%となっている(図19)。業種別に見ると、「グローバル型」を目指す企業の割合が高いのは「情報通信業」「製造業」となっている。「サプライチェーン型」を目指す企業の割合が高いのは「製造業」「卸売業」「運輸業、郵便業」となった。「地域資源型」を目指す企業の割合が高いのは「サービス業(他に分類されないもの)」「製造業」で、「生活インフラ関連型」を目指す企業の割合が高いのは「小売業」「生活関連サービス業、娯楽業」「建設業」となっている。
他方、小規模事業者の分布は「生活インフラ関連型」と回答した企業が62.5%と最も多く、次いで「地域資源型」が23.6%、「サプライチェーン型」が6.3%、「グローバル型」が3.5%となっている(図20)。業種別に見ると、「グローバル型」を目指す企業の割合が高いのは「情報通信業」「製造業」となっている。「サプライチェーン型」を目指す企業の割合が高いのは「情報通信業」「製造業」「運輸業、郵便業」「卸売業」である。「地域資源型」を目指す企業の割合が高いのは「農業、林業、漁業」「宿泊業」「製造業」となった。「生活インフラ関連型」を目指す企業の割合が高いのは「医療・福祉」「生活関連サービス業」「電気・ガス・熱供給・水道業」「金融業、保険業」という結果になっている。
図19と比較すると、中小企業に比べて小規模事業者では「地域資源型」「生活インフラ関連型」の割合が高くなり、地域や住民生活との密接性を重視する企業の割合が高いことが分かる。
このように、同じ業種内であってもそれぞれの企業が目指す姿は多様であり、「製造業」や「サービス業」といった概念だけでは捉えきれない異質性を有することが分かる。中小企業白書2020では、このように企業によって期待される役割や目指す姿が異なれば、必要な支援策も当然異なるとしており、中小企業・小規模事業者の多様性を踏まえたきめ細かい支援を通じて、それぞれの企業が生み出す「付加価値」の最大化を図っていくことが重要だと指摘している。
この「付加価値」の最大化について、中小企業白書2020では具体的な方法として、付加価値の「創出」と「獲得」を挙げている。これらについては次回、見ていくことにしたい。
長島清香(ながしま さやか)
編集者として地域情報誌やIT系Webメディアを手掛けたのち、シンガポールにてビジネス系情報誌の編集者として経験を重ねる。現在はフリーライターとして、モノづくり系情報サイトをはじめ、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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