マイクロン(Micron Technology)がオンラインで会見を開き、2020年11月9日に量産出荷を開始した「世界初」(同社)の176層3D NANDフラッシュメモリ(176層NAND)の技術について説明した。
マイクロン(Micron Technology)は2020年11月18日、オンラインで会見を開き、同年9日に量産出荷を開始した「世界初」(同社)の176層3D NANDフラッシュメモリ(以下、176層NAND)の技術について説明した。
近年のNANDフラッシュメモリは、これまで水平方向に作り込んできたメモリセルアレイを高さ方向に複数積層する3D NANDによって容量向上を果たしてきた。層数がそのまま容量の大きさにつながることもあり各社が層数の多さを競っている。2020年に入ってからは、SKハイニックスやサムスン電子が128層の3D NANDを発表していたが、今回マイクロンが発表した176層NANDはこれらを大きく上回ることになる。マイクロン米国本社のStorage Business UnitでDirector of Strategic Partnershipsを務めるラリー・ハート(Larry Hart)氏は「現状の一般的なNANDフラッシュメモリ量産品の層数が64〜96層であり、176層はそのほぼ2倍になる。大きなブレークスルーであり、当社は業界のリーダーになった」と強調する。
マイクロンは2004年にNANDフラッシュメモリ市場に参入し、2005年からはインテル(Intel)との合弁で事業を展開してきた。2018年1月にこの合弁を解消した後も、セル設計、プロセス技術などを含めて独自の技術開発を進めており、今回の第5世代に当たる176層NANDの開発にこぎつけた。
ハート氏は「半導体製造におけるムーアの法則は鈍化しつつあるが、ストレージの容量増加へのニーズは変わらず伸びている。このニーズを満たすべく開発した176層NANDを実現する上で重要な役割を果たした技術は3つある」と説明する。
1つ目は、より多くの層数を重ねるのに必要な多層化技術であり、176層NANDは第5世代に当たる。2つ目は、今後長期間にわたって微細化を可能にするゲートアレイ技術「リプレースメントゲートアーキテクチャ」だ。メモリセルアレイ層の間をつなげるピラーの微細化を実現する技術であり、容量だけでなく性能の向上にも貢献する。そして3つ目は、ロジック層の上にメモリセルアレイ層を積層できる「CMOSアンダーアレイ」である。従来は、積層したメモリセルアレイ層の周囲にロジック層を作り込んでいたため、CMOSアンダーアレイによってメモリダイのスペースを有効活用できるようになり、全体のアーキテクチャも簡素化できるという。
これらの技術によって3D NANDとしての密度も向上している。ウエハーの薄化工程後の176層NANDの厚さは75μmで、これは紙の5分の1、人間の毛髪の3分の2に当たる。従来の64層3D NANDの厚さが同じ75μmであることから、大幅に密度が向上したことが分かる。176層NANDのダイサイズは小指の爪程度で、そこにHDビデオデータを20〜30時間分を保存できるとしている。
176層NANDは容量だけでなく性能も向上している、読み出しと書き込みのレイテンシが35%以上改善し、データ転送速度は従来比33%増となる1600MT/sとなっている。「これらの性能向上により、クラウドのストレージとして活用する際のQoS(Quality of Serveice)を高められる。自動運転車の中央コンピュータのストレージとして用いるなら、その起動も“インスタントオン”と呼べるレベルで素早くなるだろう。大容量通信が特徴の5Gの導入が広がるモバイル機器でも、このデータ転送速度の高さが重要になるはずだ」(ラリー氏)という。
実際にNANDフラッシュメモリの市場拡大をけん引するSSDの出荷台数は、2019年にHDDを逆転している。NANDフラッシュメモリの容量ベースの市場規模は、今後も年平均30%の成長を続けて、2023年には1兆GBを超える見込みである。マイクロンは2019年に年間500億GB以上のNANDフラッシュを製造しておいるが、176層NANDの発表によって“業界のリーダー”としてシェアを拡大させたい考えだ。
なお、176層NANDは512GBのTLC(トリプルレベルセル)として量産出荷を開始しており、2021年中ごろにはQLC(クアッドレベルセル)での出荷が計画されている。
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