講演の途中、中西氏は「モノづくりの未来で認識すべきことは何か」についても言及。HPがスペイン・バルセロナに開設した「HP 3D Printing and Digital Manufacturing Center of Excellence」を訪れた際のエピソードを紹介し、デジタルマニュファクチャリング技術の活用が当たり前になる未来のモノづくりを見据えたHPの取り組み、そして、関係者がコラボレーションし、価値づくりに取り組む場が具現化されていることに感銘を受けたという。「このような価値づくりの場はなかなか日本では見られない。HPのこうした取り組みを、未来のモノづくりを見据えた価値づくりの場のあるべき姿(目標)として、見ておく必要がある」(中西氏)。
また、「デジタルマニュファクチャリングがもたらすもの(価値)は何か」という問いに対して、中西氏は「モノづくりの場の柔軟性を最大化できること」を挙げる。従来のモノづくりは、サプライチェーンによって材料が届けられ、工場のラインでモノが作られて、またそれが別の場所(工場)に届けられて、次のモノづくりへとつながっていく……という流れが基本で、「ある程度、場所が固定化されている」と中西氏は指摘する。
これに対して、デジタルマニュファクチャリングによるモノづくりは、“データがサプライチェーンをつなぐ”役割を果たす。「データを渡せる、つなぐことができる場所であれば、どこであっても製造の場、価値づくりの場になり得る。つまり、デジタルマニュファクチャリングは、サプライチェーンにパラダイムシフトをもたらす可能性を秘めているといえる」(中西氏)。
また、以前からサプライチェーンの再構築、一極集中から多極分散へというリスクヘッジの流れはあったが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、これが加速。3Dプリンタに代表されるデジタルマニュファクチャリング技術が、サプライチェーンの断絶により、世界的に不足する人工呼吸器などの部品や医療向け個人防護具(PPE)などの製造に寄与し、必要なときに、必要な場所で、必要な量を製造するという流れが世界各地で生まれた。中西氏は「こうした実例を基に、今後、サプライチェーンの再構築はさらに加速し、全ての場所がモノづくり、価値づくりの場になっていく可能性がある。withコロナの時代において、モノづくりの場をどのようにデザインしていくかは、重要な経営戦略になっていくだろう」と考えを述べる。
そして、もう1つ、未来のモノづくりに向けた提言として、「ライフサイクルアセスメント」と「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」をキーワードとして挙げる。中西氏は「これから先、デジタルマニュファクチャリング技術を活用したモノづくりに取り組んでいくのであれば、経営戦略として、製品が廃棄物になる流れを最小化し、それを次の生産の源泉として有効活用する流れを最大化していくことが求められる」と述べ、デジタルマニュファクチャリング技術の活用を、より豊かな社会の実現にどのようにつなげていくべきかの重要性を説いた。
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