3Dプリンティングの未来は明るい、今こそデジタル製造の世界へ踏み出すとき3Dプリンタ インタビュー(1/3 ページ)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、サプライチェーンが断絶し、生産調整や工場の稼働停止、一斉休業を余儀なくされた企業も少なくない。こうした中、サプライチェーンに回復力と柔軟性をもたらす存在として、あらためて3Dプリンタの価値に注目が集まっている。HP 3Dプリンティング事業 アジア・パシフィックの責任者であるアレックス・ルミエール(Alex Lalumiere)氏と、日本HP 3Dプリンティング事業部 事業部長の秋山仁氏に話を聞いた。

» 2020年10月29日 10時00分 公開
[八木沢篤MONOist]

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が製造業に与えたインパクトは大きい。特に、サプライチェーンの断絶に直面し、部品や材料の供給などがストップしたことで生産が滞り、生産調整や工場の稼働停止、一斉休業を余儀なくされた企業も少なくない。

 こうした中、サプライチェーンに回復力と柔軟性をもたらす存在として、あらためて3Dプリンタの価値に注目が集まっているという。

 HPが世界中の製造業のエグゼクティブ2000人以上を対象に行った調査「HP Digital Manufacturing Trend Report」を見てみると、その傾向が如実に表れている。今、3Dプリンタを取り巻く環境はどのように変化しているのか。HP 3Dプリンティング事業 アジア・パシフィックの責任者であるアレックス・ルミエール(Alex Lalumiere)氏と、日本HP 3Dプリンティング事業部 事業部長の秋山仁氏に話を聞いた。

COVID-19で見えた、3Dプリンティングの明るい未来

――COVID-19によって、3Dプリンタを取り巻く環境はどのように変化しましたか。また、COVID-19はHPの3Dプリンティング事業にどのような影響を与えましたか。

HP 3Dプリンティング事業 アジア・パシフィックの責任者であるアレックス・ルミエール(Alex Lalumiere)氏 HP 3Dプリンティング事業 アジア・パシフィックの責任者であるアレックス・ルミエール(Alex Lalumiere)氏

ルミエール氏 COVID-19の世界的パンデミックは、3Dプリンティング/デジタルマニュファクチャリングにとって、その価値の方向性をあらためて決定付ける出来事になったといえる。誰もが予期せぬ事態において、これらのテクノロジーがサプライチェーンの回復力、そして柔軟性を高めることができる存在だということが示されたからだ。

 多くの企業がCOVID-19の影響によるサプライチェーンの断絶に直面する中、HPとわれわれのパートナー企業からなるエコシステムは、途絶えてしまったサプライチェーンを3Dプリンティングによってつなぐ役割を果たすことができた。

 その効果が最も示されたのが、医療現場など最前線で働く人たちのための支援だ。コロナ禍において、HPとそのエコシステムは、不足するマスク、フェイスシールド、人工呼吸器の部品など、400万点以上のパーツを製造し、世界中の国や地域で医療支援活動を行った。

「HP Multi Jet Fusionシリーズ」を活用して製作したフェイスシールド 「HP Multi Jet Fusionシリーズ」を活用して製作したフェイスシールド ※出典:HP [クリックで拡大]

ルミエール氏 この活動からいえることは、「3Dプリンティングの未来は明るい」ということだ。われわれ自身、「HP Multi Jet Fusion」という3Dプリンティングソリューションがサプライチェーンに回復力と柔軟性をもたらし、現場を支えることができるテクノロジーであることに確信を持つことができた。

 こうした思いを反映してか、HP Digital Manufacturing Trend Reportでは、85%もの回答者が「3Dプリンティング(アディティブマニュファクチャリング)への投資を増加する予定である」と回答している。

HP Digital Manufacturing Trend Report 「HP Digital Manufacturing Trend Report」のインフォグラフィックス ※出典:HP [クリックで拡大]

3Dプリンタの普及が加速、製造プロセスのデジタル化を促進

――アジア・パシフィック地域における3Dプリンタ活用の普及状況、特徴について教えてください。

ルミエール氏 アジア・パシフィック地域に限らず、COVID-19以前から3Dプリンタの活用はグローバルで加速しているが、その国や地域ごとに適用が進んでいる領域は異なっている。

 例えば、オーストラリアでは医療業界が非常に発展しており、医療器具や患者向けにカスタマイズした医療用インソールなどの製造に3Dプリンティングが活用されている。また、中国では部品製造の領域で3Dプリンティングを活用したパーツプロバイダーが台頭しており、3Dプリンタの導入が伸びている。中国は、COVID-19の影響で大規模なロックダウン(都市封鎖)もあったが、HPの3Dプリンタで製造されたパーツの売り上げは、このコロナ禍にあっても前年比で大きく伸ばしている状況だ。

 一方、日本や韓国では、自動車産業で3Dプリンタの活用が進みつつある。治具/ツールだけでなく、スペアパーツや最終製品に使用される部品の製造に3Dプリンティングを適用するケースが見られる。また、大量生産ではなく、多品種少量生産の領域で3Dプリンタを活用できないかという検討が行われている。

 以上のように、COVID-19にかかわらず、ここ数年間、多くのお客さまの中で3Dプリンティングの検討、適用が進んできたわけだが、冒頭に述べた通り、COVID-19が3Dプリンタの価値の方向性を決定付けたことで、普及はさらに加速していくと見ている。

 そして、繰り返しになるが、特にこれまでなかった側面としては、3Dプリンティングがサプライチェーンに回復力と柔軟性をもたらすということだ。製造プロセスのデジタル化を促進し、自分たちの製造現場のより近くでパーツを製造するという流れが、今後増えてくるのではないだろうか。

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