日立製作所は、中央研究所(東京都国分寺市)内にあるイノベーション創成を加速するための研究施設「協創の森」に、エッジコンピューティング運用技術を重視するローカル5G実証環境を構築したと発表した。
日立製作所(以下、日立)は2020年10月23日、オンラインで会見を開き、中央研究所(東京都国分寺市)内にあるイノベーション創成を加速するための研究施設「協創の森」に、エッジコンピューティング運用技術を重視するローカル5G実証環境を構築したと発表した。この実証環境において、製造ラインの機能変更が頻繁に発生する多品種少量生産の製造現場を模擬し、映像による作業者支援の検証を行ったところ、パケット誤り率0.0001%、遅延時間50ms以下という高信頼で低遅延な通信環境を構築できたという。今後は、製造業を中心に、日立が5つのセクターで展開するさまざまな事業分野に向けてローカル5Gを活用したシステムを提案していく方針だ。
今回発表した実証環境は、2020年8月に商用局免許を取得した後、9月から試験的な稼働を進めて、10月に本格稼働を開始した。現時点で制度化されている28GHz帯のミリ波とNSA(Non Stand Alone)方式を用いたローカル5G環境だが、協創の森の構内2カ所に実証実験エリアを設けることで遠隔作業支援などの検証を1つの拠点内で行える。今後は、アプリケーションを模擬した実証環境を順次整備していくことになる。また、2020年末に制度化される見込みの、ローカル5Gにおける6GHz以下の周波数帯(Sub-6)の拡大やSA(Stand Alone)方式の採用についても、順次対応していく計画である。
高速大容量、高信頼低遅延、同時多接続などの特徴を持つ5Gは、IoT(モノのインターネット)の技術と組み合わせることでさまざまな産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)に役立つことが期待されている。日立は、5Gの特性を生かしたソリューションの構築と運用のためには、さまざまなアプリケーション要求や現場の制約を考慮した最適なシステム構築と運用が必要になるとみており、そのために開発を進めているのがエッジコンピューティング運用技術である。
ローカル5Gの実証環境の立ち上げに向けて開発したエッジコンピューティング運用技術は3つある。1つ目は、アプリケーションに応じた信頼性の高い5G通信環境を迅速に提供する技術だ。顧客ごとに、機器の制御や映像伝送などの各アプリケーションに求める通信品質は異なり、現場では複数の通信が混在している。開発中の技術は、アプリケーションの通信要件と現場のネットワーク環境に応じて通信品質を保証する最適な通信方式を選択するので、アプリケーションに応じた信頼性の高い5G通信環境を迅速に提供できるようになる。
冒頭に紹介したパケット誤り率0.0001%、遅延時間50ms以下の通信環境は、ローカル5Gの通信において映像データをやりとりする背景トラフィックがあるような条件下で、この技術を用いて実証したものだ。日立 研究開発グループ テクノロジーイノベーション統括本部 コネクティビティ研究部 リーダー主任研究員の藤原亮介氏は「高品質な通信を実現するために、5Gで規格化が予定されているネットワークスライシングに近い効果が得られる、QoS(サービス品質)を考慮した技術を導入している」と語る。
また、現在のローカル5G実証環境は、通信信号の制御にLTEを用いるNSA方式であるため、5Gの特徴である低遅延の効果は加わっていない。今後、通信信号の制御も5Gで行うSA方式を用いれば、さらに遅延時間を短縮できる可能性がある。
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