2つ目は、柔軟なシステム運用を実現するアプリケーションの最適機能配備技術である。アプリケーション要件を満たすためには、通信遅延を削減できるエッジ側の現場での処理と、大量の演算を行えるクラウドでの処理を最適に組み合わせる必要があるが、その設計や配置には多大な工数を必要になる。特に、現場では、スペースや電力、レイアウトなどから生じるコンピューティングやネットワークの制約があり、配置設計は複雑になる。開発した技術は、これらの制約を把握した上で、現場のシステム環境などに応じて最適な機能の配備と追加を容易に実施できる。
実証環境では、映像によって作業者支援を行うアプリケーションを用いて、オーダー情報や作業員属性に応じた適切な処理を1分以内に配備できることを確認した。日立 研究開発グループ テクノロジーイノベーション統括本部 コネクティビティ研究部 部長の奥野通貴氏は「多品種少量生産のため製造ラインの段取り替えを行う際に、5Gであれば製造ラインと関わるPLCの機能の入れ替えを一気に行える。LTEなどでは難しい」と説明する。
3つ目は、処理能力に一定の制約があるエッジデバイスでも高負荷なリアルタイム処理を可能にするエッジAI(人工知能)技術になる。この技術は、エッジデバイス側に実装する深層学習に基づくディープニューラルネットワーク(DNN)の推論モデルについて、認識精度を維持しつつ不要な計算部分を削減するための学習を効率的に行うアルゴリズムであり、推論モデルの自動的な軽量化や圧縮を実現できる。
これにより、消費電力100Wクラスのサーバグレードの装置が必要な推論モデルでも、消費電力5Wクラスの組み込みデバイスでも同程度の認識精度を持つような軽量化が可能になる。「推論モデルの軽量化を半自動で行えることも重要だ」(奥野氏)という。なお、ここで想定している組み込みデバイスは「Raspberry Pi」や「Jetson」などになるという。
日立がローカル5Gの実証環境を構築するのは、2020年9月に開設したシリコンバレーリサーチセンター(米国カリフォルニア州サンタクララ)に次いで2拠点目となる。両拠点とも、実証環境を管轄するのは研究開発グループであり、相互に知見を共有しながら、それぞれの地域の顧客に合わせた開発を進めていくことになる。
また、日立は2019年9月、ファナックやNTTドコモと共同で工場への5G導入に向けた取り組みを開始している。この取り組みとの連携については「研究開発グループとして立ち上げ時に協力したが、取りあえずはそれぞれ独立して進めていくことになるだろう」(奥野氏)としている。
なお、日立はこれまで、OT(制御技術)やIT(情報技術)、さまざまな製品を組み合わせるとともに、顧客との協創を通じて、デジタルソリューションの「Lumada」を開発してきた。今後は、このLumadaと5Gを掛け合わせた「Lumada×5G」によって、さらなる革新的なソリューションの提供につなげていく。協創の森のローカル5G実証環境を含めた5Gの取り組みは、「Lumada×5G」をより明確な形で事業展開につなげていくためのものだ。
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