E2Eでサプライチェーンモデルを構築する上での勘所を紹介する。まず、単純にいえば「生産(調達)活動と販売活動の繰り返し」がサプライチェーンである。よってE2Eサプライチェーンモデルは、生産(調達)活動と販売活動をモデル化しつなぎ合わせたものといえる。
生産(調達)活動と販売活動のモデルは、基本的に以下の3つの要素(PSI)で表現される。
生産(調達)活動をインフロー、販売活動をアウトフロー、そしてインフローとアウトフローの時間的な差異を在庫(ストック)と捉えると分かりやすい(図1)。
ここで重要なことは、先述の通り各活動の計画と実績を捉えるデータの意味と、PSIをどんなくくり(物理的な工場や倉庫単位、論理的な単位など)で捉えるかという定義である。どのように定義するかは、サプライチェーンをどこで、どのようにコントロールするかによるため、一概に正解はなく、見極めが大切である。
E2Eサプライチェーンモデルとして、生産(調達)活動と販売活動をモデル化しつなぎ合わせるためには、「物流ネットワークとしてのPSIのつなぎ」、「経営層と管理層・現場層とのPSIのつなぎ」および「データ取得タイミングの同期化」の観点が重要となる。
上記モデルは、単一階層PSIとしてのモデルであるが、グローバルにおけるサプライチェーンは、PSI同士をつなぎ合わせた多階層モデルとなる(図2)。
その場合、調達や製造、運搬に関わる時間的要素(リードタイム)を加える必要がある。また、手段(航空輸送、海上輸送など)によってリードタイムが異なる場合は、その点もモデルとして加えなければならない。例えば、日本の工場から米国の販売拠点にモノを運ぶ場合、海上輸送と航空輸送ではリードタイムが異なるため、1つの手段を前提としてモデルを構築した場合、実際と大きく懸け離れてしまう。
前回記事(連載第4回)で紹介した全ての事例は、前提としてデジタル上にサプライチェーンモデルを構築し、計画業務の連携や実績を捉えている。「グローバルPSI(生産・販売・在庫)計画」の事例は自社もしくは自社グループの組織内でのサプライチェーンモデルを構築し実現しているが、「流通PSI計画」「サプライヤー計画連携」の事例は、企業の壁を越えて川上方向ないし川下方向に拡大し、サプライチェーンモデルを構築し実現している。
販売活動や生産活動の実行には実際のモノを作る、動かすことが必要であるため、製品コードや仕入れ先、出荷先などの詳細レベルのデータが必要となる。一方で中長期の計画、意思決定をするためには製品コードなどの詳細レベルのデータでは粒度が細かすぎて、全体感がつかめなくなる。そのため、中長期の計画、意思決定には全体、地域、拠点、製品群などの集約した情報が必要になる。経営層と管理層、現場層が連携していくためには集約したデータと詳細データを相互に変換できなければならない。
また、経営層は金額を中心とした意思決定になるため、数量の観点だけではなく、金額の観点、つまり商流の観点も加味することが必要である。例えば、3国間貿易の場合、物流と商流は異なるため、正しく金額を把握するためには、物流と商流を相互に変換できなければならない。サプライチェーンモデルは、物流に加えて商流の考慮が必要になる。
E2Eサプライチェーンモデルは、デジタル上でサプライチェーンを再現する枠組みであるが、モデル上で正しく状態を把握し意思決定につなげていくためには、必要となるデータを適切なタイミングで取得する必要がある。
例えば、週サイクルの計画プロセスを定義しても、実績データが月次でしか取得できなければプロセスは回らない。グローバルに展開する拠点のデータを、業務やデータの締めのタイミングを考慮し、整合性が保たれる時点でそろえて取得できなければ、プロセスの精度は悪化する。必要なデータを、グローバルで整合性を保ち取得するために、タイミングも合わせて定義しておかなければならない。
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