矢面氏の考える「スマートファクトリー」と専務の考える「スマートファクトリー」が異なるというのはどういうことなのでしょうか。
「スマートファクトリー」は指し示す範囲が非常に広く、今までの製造業の部門や枠組みで考えると、いくつもの部門をまたがることになると思うの。そうすると当然それぞれの部門や立場から見た「スマートファクトリー」が生まれることになるわね。
なるほど。確かに。
スマートファクトリーの理想像は「マスカスタマイゼーションの実現だ」などともよく言われるけど、これを実現するにも製造現場だけではできないわよね。設計部門や調達部門などそれぞれの整備が進んではじめてできることよね。そう考えるとまずはそれぞれの「スマートファクトリー」であったり、スマートファクトリー化に必要なもの、得られるものが何かをすり合わせる必要があると思うわ。
でも、それぞれの描く姿が違ったら、折り合えなかったりするんじゃ……。
第4次産業革命として話もしたけど、今起こっている「デジタル変革」の動きは、最終的には全てのシステムが自動的に連動し、デジタルデータを自由に活用することで、社会や産業を効率化していくという動きの一端なの。だから、いずれは全てがつなげていくということなのよ。今苦しんでいるのは、どこからどの順番で「つないで」いくのかということ。その投資負担をできる限り小さくして、成果のでやすいところからつないでいくということだと思うの。
そこは分かりますが、だからこそ、成果の出やすい「現場の見える化」から進めているわけで、それを「小さすぎて意味がない」と言われると何もできなくなるんですよ。
それはそうね。そういう意味では、専務のような経営層にとってもそういう認識を持ってもらうように、全体の枠組みや位置付けを提案するいいチャンスかもしれないわね。まあ、今までと枠組みが変わる中でこういう問題は、日本だけで起きていることではないのよ。だからこそ「レファレンスアーキテクチャ」がインダストリー4.0などの動きでは当初注目されたのよ。
ドイツのモノづくり革新プロジェクト「インダストリー4.0」では、2015年に公開された「実践戦略」で、「Reference Architecture Model Industrie 4.0(RAMI4.0)」を示しました。これは3つの軸で、各層で企業内の部門やモノづくりにおけるバリューチェーン、それぞれを担うデバイスやシステムなどを位置付け「誰が関わるどのプロセスの何の話をしている」ということが分かりやすく示されています。
日本の製造業にとってみると、2016年にIndustrial Value Chain Initiative(IVI)が発表したスマート工場の基本モデル「Industrial Value Chain Reference Architecture (IVRA)」の方がより理解しやすいかもしれません。
こちらは、現場の作業レベルを示す「スマートマニュファクチャリングユニット(SMU)」とこれらを組み合わせた「ゼネラルファンクションブロック(GFB)」で構成され、SMUは横方向の軸に「アクティビティー軸」を据え、Plan、Do、Check、ActionというPDCAサイクルでの分類を行っています。また、奥行き方向については「マネジメント軸」とし、クオリティー(Q)、コスト(C)、デリバリー(D)、環境(E)というQCDE活動で示される分類を行っており、より日本の製造業で身近に行う活動が落とし込まれているのが特徴です。こうしたアーキテクチャを活用し「誰がどこで何をする活動についてのスマート化なのか」をずれないようにしていくことがまずは求められていると感じています。
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