買収の果てにオープンソース化した「Micrium μC/OS」、実は使い勝手がいい!?リアルタイムOS列伝(6)(2/3 ページ)

» 2020年10月06日 10時00分 公開
[大原雄介MONOist]

2020年からオープンソース化、Silicon Labsは事実上の“放棄”

 この流れを断ち切るためなのか、Silicon Labsは2020年1月にμC/OSのオープンソース化を発表している。当初はライセンス条項が明確になっていなかったが、その後きちんと指針が出た。具体的には、同年2月7日までは従来のμC/OSのライセンスが有効であり、この期間にライセンスを購入した開発者には、2020年末までのテクニカルサポートが提供される。一方で、2月7日以降はオープンソースライセンス(Apache 2.0)に切り替わり、全てのコンポーネントがオープンソースで提供される一方で、テクニカルサポートはなくなる。

 要するに、せっかく買収したμC/OSであるが、Silicon Labsはこれを持て余し、かといって今さら再売却もできないし、既存のユーザーも存在するので、オープンソース化してこれに対応する(というか、ユーザーに対応してもらう)というものだ。事実上の“放棄”である。

 とはいえ、既にGitHubに全コンポーネントが上がっており、技術力のある開発者であれば、これを入手して自分でメンテしながら使うのは十分に可能な状況ではある(図2)。歴史の長いRTOSだけに、それなりにユーザーは多数存在しており、こうしたユーザーであれば自身でメンテナンス可能であろう。

図2 図2 「Micrium μC/OS」のGitHub。全コンポーネントが上がっている(クリックでWebサイトへ移動)

 その一方でμC/OSは、ミッションクリティカルな分野でも多数利用されている。例えば、TCP/IPやUSBは割とどんなRTOSでもサポートしているが、CANバスのプロトコルスタックを提供するRTOSは限られるし、Modbusをサポートするものはさらに少ない。これらの機能を備えるμC/OSは、CANやModbusを利用する産業機器分野では結構使われている。

 また各業界向けの展開でいえば、航空機のアビオニクス向け機能安全規格であるDO-178B Level A〜Eや、産業機器向け機能安全規格のIEC 61508 SIL 1〜3、医療機器向け機能安全規格であるIEC 62304 Class A〜Cに対応、というものもそう多くなく、こうした機能安全が要求される分野(自動車業界は除く)でも使われるケースが多い。余談ながら、μC/OSは、車載ソフトウェアのC言語コーディングガイドラインであるMISRA-Cにも対応している(μC/OS-IIがMISRA-C:1998に、μC/OS-IIIがMISRA-C:2012にそれぞれ対応)ので、自動車業界でも使われている可能性もある(ただし、MISRA-Cは自動車業界以外では使われないというわけでもないので、これだけでは何ともいえないが)。

 ただし、これらの業界に対して、「オープンソースライセンスにしたので今後はサポートしません」などと言ったら殴り倒されるわけで、そんな事情もあってSilicon Labsは今後のμC/OSのサポートを米国のWeston Embeddedと、ドイツのEmbedded Officeに委託した。米国の顧客はWeston Embeddedが、欧州の顧客はEmbedded Officeがそれぞれサポートを引き継ぐ形になる。

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