次世代エネルギーとして注目集まる燃料電池のエネルギー効率向上に関連する1つの技術としてパナソニックが2020年8月に開発を発表したのが「超音波式水素流量濃度計」である。同製品の企画を担当した、パナソニック アプライアンス社 スマートエネルギーシステム事業部 ビジネスソリューション部の三重野雅裕氏に話を聞いた。
次世代のエネルギーとして水素を活用した燃料電池への関心が高まっている。しかし、既存のエネルギーに比べ、あらゆる次世代エネルギーに共通の課題が、エネルギー効率である。エネルギー効率を高めることができれば、利用できる環境が広がり、さらにそれをインフラとして広げていくことが可能になるからだ。
その燃料電池のエネルギー効率向上に関連する1つの技術としてパナソニックが2020年8月に開発を発表したのが「超音波式水素流量濃度計」である。同製品の企画を担当した、パナソニック アプライアンス社 スマートエネルギーシステム事業部 ビジネスソリューション部の三重野雅裕氏に話を聞いた。
パナソニックでは、純水素燃料電池や家庭用燃料電池「エネファーム」を開発している。これらの燃料電池製品の開発において、重要になるのが水素使用量の効率化である。燃料電池は基本的には水素と酸素が化学反応を起こして水になる際に生まれる電気を活用して発電する技術だが、水素を効率的に活用するためには反応しなかった水素を回収して循環させる仕組みが必要になる。しかし、従来は高湿環境下で正確に水素の流量や濃度を計測する技術がなかったため、循環する水素量を推測し新たに供給する水素の量を決めるというやり方だった。
そのため「新たに供給する必要のない水素を供給してしまい、水素を無駄に消費している場合があった。正確に循環量を計測できることで、新たに必要な水素の量を正確に把握することができ、より効率的な燃料電池システムが構築できるようになる」と三重野氏は語っている。
気体の流量や濃度を計測するには、さまざまな手法があるが、パナソニックでは超音波式流量濃度計を採用した。「もともと、ガスメーター向けに開発していた技術を応用し、一般的な気体における超音波式流量計を製品化していた。そのノウハウと、燃料電池開発のノウハウを組み合わせることで、超音波式水素流量濃度計の開発を進めた」と三重野氏は経緯について述べる。
ただ、開発でのハードルとなったのが、高湿度環境である。燃料電池では反応を進めるために加湿するのが一般的だが、高湿度環境では超音波気体流量計では計測が困難になる状況が生まれる。超音波気体流量計は、超音波センサーにより超音波の伝搬速度の違いを利用して流量や気体濃度を測る仕組みとなっている。これは既知の気体の特性を生かして計算する仕組みとなっているが、高湿度環境では超音波そのものを正確に打つのが難しい他、ノイズが入るために、正確な計算が難しくなるからだ。
そのため、従来は流量を正確に測るためには一度除湿をして計測し、その後必要な水素量を割り出す仕組みを採用していた。ただ、新たに開発した「超音波式水素流量濃度計」は、高湿度環境で水素の流量と濃度を同時計測することを実現した。高湿度環境での計測をどのように実現したかについては「詳細は企業秘密となるが、さまざまな気体を扱うノウハウを生かしながら、センサーと信号処理の両面で工夫を進めたことで、正確な計測を可能とした」と三重野氏は語る。
その他、超音波式を採用しているために、センサーと気体が非接触で圧力に影響を与えにくい利点や、広範囲の流量や濃度計測を1台で計測できる特徴を備えたという。
今後は、純水素燃料電池や燃料電池車の研究・評価機関などへの展開を進めていく方針である。現在の計測装置は基本的には研究機関への導入を想定しており、一般機器に組み込む形では想定していない。「研究開発段階で計測結果を設計に組み込むことができれば機器としては問題ない。個々の機器で水素の流量を計測するという必要性まではまだ考えていない」(三重野氏)。
実際に発表後は、燃料電池メーカーの研究部門や関連研究機関の問い合わせなども増えているという。三重野氏は「燃料電池の普及はまだ先の話になるが、将来的な普及を考えた場合、水素の効率的な活用は大きなポイントになる。先行開発はさまざまな分野で進んでおり、開発促進の1つの要因になりたい。サンプルを今市場展開しているので、まずは市場性を確認しつつ製品化につなげたい」と述べている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.