具体的にモビリティの新たな姿に向けてソニーが提供できるものとして、川西氏は「セーフティ」「エンターテインメント」「アダプタビリティ」の3つを挙げる。
「セーフティ」は、ソニーの持つCMOSイメージセンサーをはじめとしたさまざまなセンシング技術を活用することだ。ソニーでは、イメージセンサー技術でクルマの安全を確保するコンセプトとして「Safety Cocoon」を訴えている。「Cocoon」は「繭」もしくは「包むように保護する」という意味があり、イメージセンシング技術により自動車を包み込むような形で、自動車周辺の360度の情報感知エリアを形成し、早い危機回避行動を可能とすることで安全性を確保することを目指す。
実際に「VISION-S プロトタイプ」にも33個のセンサーを社内外に設置し、安全確保を実現する。車内で採用したToF(Time of Flight)カメラではドライバーや乗客の顔や体の動きを認識し、それに合わせた情報発信などを行えるようにする。「現状の『VISION-S プロトタイプ』は自動運転レベル2+だが、同じ構成でソフトウェアアップデートによりレベル4まで対応することを想定して開発している」(川西氏)。
「エンターテインメント」は「ソニーがオーディオビジュアル製品などで培った実績を最も生かせる領域だ」(川西氏)とする。「VISION-S プロトタイプ」では、音源に位置情報を付けて球状の空間に配置する「360 Reality Audio」技術を採用。アーティストと同じ空間にいるかのような立体感のある音場を実現した。加えて、センターミラーディスプレイは横長サイズのパノラミックスクリーンとし、クルマのデジタル化が進む中で、表示する情報量が変わっても対応できるようにした。
これらのHMIシステムのSoC(System on a Chip)にはクアルコムの車載用Snapdragonを採用し、リアルタイムOSとしてはQNXを採用。また、ナビゲーションシステムなどはAndroidで動かしているという。これらを個々のハードウェアで駆動するのではなくハイパーバイザーで仮想化しシンプルな構成を実現していることが特徴だ。「システム構成もスマートフォン端末の開発で行っていることを応用した」と川西氏は語る。
「アダプタビリティ(順応性)」は、今後のクルマにコネクティビティなどが重要な要素となる中、クラウドやネットワークなどの最新の技術に常に適応していく必要性が出てくるという点となる。
「VISION-S プロトタイプ」でも常にクラウドとの通信を行っているが、このクラウドの構築をほとんどAWSのさまざまなマネージドサービスを使って構築した。例えば、車両デバイス認証では「AWS IoT」で行い、ニアリアルタイムデータ処理は「Amazon Kinesis」で行っている。またクルマとクラウド、アプリのデータ同期には「Amazon AppSync」を使い、データ集計や分析、BIは「Amazon Redshift」「Amazon Athena」を使っているという。マネージドサービスを活用することで最新技術を生かした機能拡張を容易に行える。
「VISION-S プロジェクト」は、2021年3月期中に公道での走行試験を行う計画だという。川西氏は「モビリティの進化はモバイルよりもはるかに大きく社会の在り方を変える。ソニーはモビリティのIT化を進めていく。クルマを“走るコンピュータ”と考えると、さまざまな新たな価値を生み出す余地があると考えている。移動空間における新しい感動体験を生み出したい」と目標について語っている。
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