第2部ではStrategic Impact Unitパートナーの尾山耕一氏が「持続可能なモビリティ産業への転換に向けて」をテーマに、自動車産業の限界と転換の時期、その後の取り組み方などについて話した。
CO2排出の限界については、2015年のパリ協定において地球の温度上昇を「2℃」、できれば「1.5℃」以内に抑えることが望ましいというコンセンサスがなされた。「1.5℃」を実現するためにはガソリンエンジン車を販売できるのはあと20年程度といわれている。2050年には全くCO2を排出しない自動車を走らせることを目指すためには代替期間を考えると、2040年にはZEV(ゼロエミッションビークル)しか売ることができなくなると試算されている。
自動車メーカーのCO2排出削減目標をみても、2015年の段階でトヨタ自動車が2050年には新車のCO2削減90%を掲げていた。一方、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲンなどは2039〜2040年には新車のCO2を0にするという目標を打ち出した。
ただ、自動車業界にはCO2削減以外にもさまざまな課題があり、自動車の生産工程で消費する水の量が年間62億t(約9000万人の年間生活水消費量に相当)であること、鉄鋼消費量年間2億t(全鉄鋼消費量の12%に相当)であることに加えて、車両廃棄、NOx排出量、交通事故抑制などの課題がある。そして、天然資源を際限なく消費しCO2を大量に排出するような物質至上主義経済に持続性はないという認識も広がっている。
そうした現状で政府、投資家やサプライヤー、消費者、NGOなどさまざまなステークホルダーから自動車メーカーに対して、「環境と経済の双方を追求する事業変革」への外圧が強まってきた。この対応策として「例えば気候変動に対しては、将来的にEV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)に代えるなど事業転換を行うことに加えて、長期的なサスティナビリティを考えると、よりCO2を吸収できるテクノロジーや、地球変動全体の気候変動対策に貢献できるかが求められている」(尾山氏)。
さらに水や資源についても環境負荷ゼロの工場の実現や、サプライヤーを含めたサプライチェーン全体への波及が重要になる。結果的に、それらを追求することでバリューチェーン全体の抜本改革へとつながることが期待される。それに伴い、ビジネスにおいて新たな価値軸も求められる。従来ビジネスの時代から現在のCASEの時代、そして次には「Beyond CASE」を捉えたケースが見込まれている。
ビジネスを構成するファクターは大きく変わる。顧客は従来のビジネスではオーナー兼ドライバーだが、それが必ずしも車両を所有しない生活者へと変わり、やがては地域あるいは国家全体という社会へと変化する。提供価値もクルマそのものから、「動く何か」へとなり、「より良い社会づくり」というものに移り変わる。「これまで考えてきたビジネスの枠組みを少しずつ拡張していくことを検討しなくてはいけない」(尾山氏)という時期が到来しているようだ。
ただ、それに向けた道のりは長く、長期的には「二足のわらじ」を継続し、緩やかにビジネスのポートフォリオを変化させていくことが望ましい。「時間軸で見て、総投資の40%をあえて10年後など長期的に振り向けていく」(尾山氏)など投資配分を考えるなど、50年先を見据えた意思を体現した企業経営が重要になっている。
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