流れ場解析結果については、エンジンオイルパン、サスペンションクロスメンバーおよびフロントタイヤ周辺で渦が発生していることが、Lambda2の等値面分布により観察できた。また、圧力変動分布図から、サスペンションクロスメンバーとフロアパネルの圧力変動レベルが、高いことが分かった。そこで、圧力変動の中でフロアパネルと剛結されているサスペンションクロスメンバーおよびフロアパネル表面の圧力変動を加振源として振動音響解析の入力データとした。
まず、サスペンションクロスメンバーとフロアパネルのどちらが車内音に寄与が大きい部位なのかを調査した。車両床下流れ場の圧力変動が車室内騒音へと至る経路について2つの経路を検討した。1つは、フロアパネル表面の圧力変動がフロアパネルを加振して、フロアパネルが車室内へ音を放射する経路である。もう1つが、サスペンションクロスメンバー表面の圧力変動がサスペンションクロスメンバーを加振し、その振動が骨格を伝わりフロアパネルを振動させて、フロアパネルから車室内へ音が放射される経路である。
数値解析ではサスペンションクロスメンバーとフロアパネルの両方を加振源とした場合と、それぞれを加振源とした場合の3ケースで車内音解析を実施した。車内音の評価位置は運転席窓側の耳位置とした。その寄与度分析の結果をみると、車内音の寄与の大きい部位はフロアパネルであることが分かった。
続いて共振パスと質量則パスの寄与度分析を行った。車内音の計算に際して使用する振動モードの数を変えることにより、それぞれを分析。その結果、200Hzよりも高い周波数帯域で、質量則パスが支配的となっていることが分かった。従って「200Hz〜800Hzの床下空力騒音を低減するためには、床下流れで発生する渦音の音圧レベルを低減することが有効だと考えられた」と奥津氏は結論付けた。
数値解析結果より得られた車内音場の音圧分布をみると40〜500Hzではその周波数帯域の音響モードに依存した分布となった。一方、800Hzまで周波数が高くなると明瞭な音響モードは見られなかった。「このことから、床下空力騒音の対象とする周波数帯域では、音響モードに依存する周波数帯域を含むため、空間平均応答を予測するSEA(統計的エネルギー解析法)を用いた場合、予測誤差が生じる可能性がある。従って、今回実施したようなFEMによる車内音解析の方が適していると考えられる」と奥津氏は解析手法について語っている。
これらの結果から床下流れ中で発生する渦音を低減すれば、車室内の床下空力騒音を抑えられることが見込まれる。渦音は流体音源項から生じる圧力波を空間積分したものであるため、強い音源項が多く存在しても必ずしも渦音が高くなるとはいえないものの、この渦音源を分析することで、騒音発生の可能性を持つ部位を推定することに役立つ。これらの結果、床下空力騒音の低減策として、エンジンアンダーカバーを装着することで室内の床下空力騒音を広域帯で約2db低減できるという結果を得たという。
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