この機構解析モデルにはダッソー・システムズの「Simpack」を採用しているという。Simpackはマルチボディーシミュレーションのためのソフトウェアで、市川氏は「機械システムがどのような運動をするか、その運動の課程でどのような荷重が発生するかを数値的に予想できる」と述べている。質量や重心、取り付け点座標、バネ点数などのモデルパラメータに基づいて計算を行い、荷重やたわみ、変位結果を出力する。「従来のリアルタイムシミュレーションでは計算速度の都合で、剛体モデルしか扱えなかった。Simpackでは弾性体モデルもリアルタイムに計算できる。そのため、ブームのたわみによる荷振れを再現可能だという点に着目した」(市川氏)。
Simpackで作成したラフテレーンクレーンのモデルをみると、起伏シリンダやシリンダピン、プーリなどの機構も忠実にモデル化し、総自由度数は77に及ぶ。市川氏は「この数は従来の一般的なリアルタイムモデルに比べ2倍以上の自由度である。Simpackだからこそ実現できた値だ」と評価している。設計データをそのまま入力すれば、高精度なシミュレーションが行えるので、設計検討に適したモデルといえる。このクレーンモデルとロードケース(周辺の構造物)を合わせてシナリオモデルが完成する。シナリオモデルでは、初期条件やクレーンの操作入力、接触定義などを行う。このようにすることで、クレーンの機種や作業環境の異なるさまざまなシナリオに対応することができる。
また今回、シミュレーターの特徴であるブームの弾性体モデルについては、Simpackの梁要素「SIMBEAM」を用いて構築している。SIMBEAMにより、ブームの弾性変形をパラメトリックにモデル化し、ブームのたわみを物理的に表現できる。こうして構築したSimpackモデルは、クレーンシミュレーターに直結し、設計段階でのオペレーターによる感性評価が実現できたという。
シミュレーターの導入効果として市川氏は「実機試作前の新機能の確認と調整ができるようになり、手戻りを削減することができた。また社内での開発用のコミュニケーションツールとして部門をまたいだ意見交換などが行えるようになった」と成果について述べている。
今回の開発結果などを生かし、タダノでは今後さらにシミュレーションの活用を広げていく計画だ。今後の取り組みとして「シミュレーターの精度(油圧の動特性をシミュレーション上で再現させ、実機をより精度良く模擬する)」「感性評価の指標確立(操作の評価基準を策定する)」「新機能開発への活用(半自動運転の開発に用いる。遠隔操作の仕様決定に用いる)」の3点を計画している。
市川氏は「シミュレーターの精度向上に取り組むだけではなく、こうしたオペレーターの感性そのものの評価基準を定量的なモデルとして再現することで、さまざまな工程で活用できるようにしていく」と語っている。
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