縦割りにIoTで横ぐしを、三菱電機が全社横断基盤で目指す“データカタログ化”製造業IoT(1/2 ページ)

製造業でもIoTの活用が広がる中、新たに三菱電機が構築を発表したのが全社横断IoT基盤「クラリセンス」である。「クラリセンス」の狙いと役割、そして技術的背景について、三菱電機 情報技術総合研究所 IoT開発推進プロジェクトグループ 主席技師長の鶴薫氏に話を聞いた。

» 2020年07月28日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]

 さまざまな現場でIoT(モノのインターネット)の活用が進む中、新たに得られるデータを部門内だけでなく全社で横断的に活用しようという動きが活発化している。こうした動きの中で、新たに三菱電機が構築を発表したのが全社横断IoT基盤「ClariSense(クラリセンス)」である(※)

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 三菱電機は「事業部制」の中で各事業部がある意味で独立採算を追い求める中で成長を遂げてきた歴史があり、製造業の中でも「縦割り志向」が強い傾向がある。この中で全社横断IoT基盤はどういう役割を果たすのだろうか。「クラリセンス」の狙いと役割、そして技術的背景について、三菱電機 情報技術総合研究所 IoT開発推進プロジェクトグループ 主席技師長の鶴薫氏に話を聞いた。

事業部でバラバラだったIoTへの取り組みをまとめる

 三菱電機では従来の事業部ごとの取り組みを「インフラ」「モビリティ」「ライフ」「インダストリー」の4分野の取りまとめ、これらに向けたソリューション事業の展開を目指している。これらのカギを握る技術としてAI(人工知能)とIoTを掲げている。AIについてはAI技術ブランド「Maisart」としてまとめ、「コンパクトな人工知能」技術を核とし、データの発生源に近いところで使用できるということを特徴にさまざまな領域での活用が進んでいるが、IoTについては各事業部でバラバラに取り組んでいた状況だった。

photo 三菱電機 情報技術総合研究所 IoT開発推進プロジェクトグループ 主席技師長の鶴薫氏

 そこで、これらを取りまとめ、各種システムを連携させられるようにするために「クラリセンス」の構築を進めることを決めたという。鶴氏は「電力インフラ設備など向けのIoT基盤『INFOPRISM』のように、既に独自のIoT基盤などを展開する事業部がいくつかあったが、基本的にはバラバラの取り組みとなっていた。しかし、IoTデータがより多く集まってくる中で、三菱電機内でも相互に利用できる可能性が見えてきていた。そこで全社で共通してデータを活用できる仕組みが必要だということになり、統合IoT基盤を構築する流れとなった」と経緯について振り返る。

 構築に際し「クラリセンス」が目指したのは主に3つの点である。1つ目が「機器の知見や技術資産を統合・一元化する」ということだ。鶴氏は「三菱電機の強みとなるのは、機器やエッジでのデータ活用の部分だ。そういう知見をIoTでも発揮できる形でデータを集める必要性がある。これらをIoTシステム統一設計ガイドライン、ソリューションライブラリなどに統合し、付加価値の高い新たな製品やサービスを作り出せるようにする」と語る。

 2つ目が「実装形態に自由度を持たせる」という点だ。「三菱電機の事業内でもさまざまな分野や機器の種類がある。こうしたさまざまな環境や要件でも実装できるということが条件だ」と鶴氏は考えを述べている。

 3つ目は「標準API(Application Programming Interface)の採用によるシステム連携」である。鶴氏は「さまざまな機器やシステムとの連携を、負荷小さく実現するためにはインタフェースの整備は欠かせない。標準化が進むAPIなども多いのでこれらに準拠することで、さまざまなシステム連携を確立し、統合分野を作り出していく」と鶴氏は語っている。具体的にはWebAPIの採用などを進める一方、既に標準が決まっている領域についてはこれらの対応を進めていく方針だ。APIがまだ定まっていない領域については新たなAPIの発信なども進めていくとしている。「基本的には既存のオープンな技術を使うというのが前提だ。それがない領域については、技術動向を見定めながら新たに標準化を提案する可能性もある」(鶴氏)。

「クラリセンス」はプラットフォームではなくアーキテクチャ

 重要な点が「クラリセンス」は、さまざまなIoTサービスを展開する「IoTプラットフォーム」ではなく、これらの前提となるデータの在り方を示す「IoTアーキテクチャ」であるという点だ。

 「ビジネスそのものはそれぞれの事業部で構築したIoTプラットフォームによって展開する。しかし、プラットフォーム間の連携やデータの相互活用ができなければ、全体最適な形でデータ活用を行えない。その前提となるデータの持ち方や受け渡し方、インタフェースなどを決めることが『クラリセンス』の大きな役割の1つだ」と鶴氏は語る。

 IoTアーキテクチャといえば、ドイツがインダストリー4.0を推進する中で発表した「RAMI4.0(Reference Architecture Model Industrie 4.0)」やインダストリアルインターネットコンソーシアム(IIC)が作った「IIRA(Industrial Internet Reference Architecture)」などが有名だ(※)が、鶴氏は「RAMI4.0やIIRAは階層の幅が広い。『クラリセンス』はビジネスレイヤーを含めないなど、これらのアーキテクチャよりも領域を狭く絞り込んでいる。一方で、絞り込んだ領域内では具体的な仕組みを決めている点が違いである」と語っている。

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 さらに、これらのアーキテクチャをベースとしデータ活用の典型的な形を「ソリューションライブラリ」としてまとめ、これらを三菱電機グループ内で展開する。「より早く簡単にデータを活用した新たなビジネス構築が行えるようにしていく」と鶴氏は役割について説明している。

photo 「ClariSense」によるソリューションの展開イメージ(クリックで拡大)出典:三菱電機
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