鉛バッテリーがリチウムイオン電池を超える、古河電工がバイポーラ型蓄電池で材料技術(2/2 ページ)

» 2020年06月10日 07時30分 公開
[朴尚洙MONOist]
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長周期向け電力貯蔵用電池として提案、市場規模は2030年に8000億円

 従来の鉛バッテリーの正極と負極では、鉛の厚板を格子状に打ち抜いた「グリッド」が用いられている。これに対してバイポーラ型蓄電池は、鉛を薄い箔にしているので材料使用量を大幅に削減できる。樹脂プレートを挟んで表裏に正極と負極を持つ電極基板を用いることで体積当たりの電力容量の向上も可能だ。また、電解液である希硫酸を電極基板間に封じる構造を採用しているので、鉛バッテリーのような液漏れが起こりにくく、電池システムとしての設計自由度も高い。

 新開発のバイポーラ型蓄電池の充放電電流は、電池の満充電と全放電をそれぞれ5時間で終えられる0.2CAとなっている。これは、主な用途として、再生可能エネルギーの有効活用に必要なピークシフトなどに用いられる長周期向け電力貯蔵用電池を想定しているからだ。

再生可能エネルギーの有効活用に求められる長周期向け電力貯蔵用電池 再生可能エネルギーの有効活用に求められる長周期向け電力貯蔵用電池。充放電電流は0.2CAでよい(クリックで拡大) 出典:古河電工

 長周期向け電力貯蔵用電池としては、従来の鉛バッテリーやリチウムイオン電池の他、NAS(ナトリウム硫黄)電池、レドックスフロー電池などがあるが、性能、リサイクル性、安全性、コストなどで課題があった。バイポーラ型蓄電池は、鉛バッテリーと同じリサイクルプロセスを適用可能であり、コストについても蓄電システムとしてのトータルコストで見ればリチウムイオン電池の2分の1で済む。「電池単体のエネルギー密度はリチウムイオン電池の方が高い。しかしバイポーラ型蓄電池は、システム構築時にリチウムイオン電池で必要となる離隔距離が不要なので設置面積当たりのエネルギー量で上回る。また、空調や温度管理設備も大幅に簡略化できる。まさに電力貯蔵用電池として理想的だ」(古河電気工業 執行役員 研究開発本部次世代インフラ創生センター長の島田道宏氏)という。

現行の電力貯蔵用電池の性能比較バイポーラ型蓄電池とリチウムイオン電池の性能比較 現行の電力貯蔵用電池の性能比較(左)。有力とされるリチウムイオン電池でもリサイクル性とコストに課題がある。バイポーラ型蓄電池とリチウムイオン電池の性能比較(右)。バイポーラ型蓄電池はリチウムイオン電池の課題をクリアしたとする(クリックで拡大) 出典:古河電工

 長周期向け電力貯蔵用電池の世界市場規模は、2017年時点で2000億円超だが、2030年には8000億円まで拡大する見込み。島田氏は「2021年度のサンプル出荷で、顧客にどれくらい使ってもらえるかを確かめていく。販売目標はその上で公開していきたい」と述べる。

 今後の技術開発の方向性としては、充放電性能と寿命を大幅に高めた鉛バッテリーである「UltraBattery」との技術融合を検討している。現時点で0.2CAという充放電電流を1CAまで高められるため「周波数調整などの短周期向け電力貯蔵用電池の他、小型EV(電気自動車)なども視野に入ってくる」(島田氏)という。

次世代バイポーラ型蓄電池として「UltraBattery」との技術融合を検討 次世代バイポーラ型蓄電池として「UltraBattery」との技術融合を検討(クリックで拡大) 出典:古河電工
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