商用車メーカーは、なぜ積極的にライバルと組めるのかいまさら聞けないクルマのあの話(6)(3/3 ページ)

» 2020年05月25日 06時00分 公開
[友野仙太郎MONOist]
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トヨタ依存から脱却した新生日野

 トヨタグループの商用車部門であり、国内で商用車メーカートップの販売台数を誇る日野も新たな動きを加速しています。トレイトンとの業務提携をはじめ、これまでの日野には見られなかった戦略を次々と打ち出しています。

 日野とトレイトンは、2018年4月に業務提携を発表して以降、販売からサービス、調達、技術開発に至る多くの領域について協業の検討を重ねていました。その結果、第1弾として2018年9月に電動化技術と部品調達の分野で合意。2019年10月には共同購買に関する部品調達の合弁会社「日野&トレイトン・グローバル・プロキュアメント」を設立しました。出資比率はトレイトンが51%、日野が49%とし、新会社のオフィスはドイツ・ミュンヘンと東京に設けます。

 これにより日野が得意とするアジアと、トレイトンが得意な欧州を中心に、グローバル調達での競争力を強化する狙いです。また2020年3月には電動車のプラットフォームやコンポーネントを一括企画して共有化すると発表しました。駆動用モーターなどコア部品を両社で統一化し、小型トラックから大型のトラック、バスまで様々な車種に搭載します。開発は日本と欧州に新設する専任チームが担当し、スピーディーな商品化を目指します。

 さらに日野は2020年4月、中国の電気自動車(EV)大手である比亜迪(BYD)とEVトラックなど電動車開発に関する戦略的パートナーシップ契約を発表。まずは個別のEV開発から協業を開始し、EVの普及促進に向けて販売面や周辺事業などでも協力していく方針です。また、親会社のトヨタとはFC大型トラックを共同開発するなど、グループ内外にとらわれず、事業内容に最適なパートナーを選択しています。

 日野がここまで柔軟に舵を切れるようになった背景には、2017年6月に就任した社長 下義生氏の存在が大きく影響しています。それまで日野では代々トヨタ出身者が社長を務めてきましたが、下氏は16年ぶりの生え抜き社長として抜擢されました。下氏は就任前の1年間、トヨタへ役員として出向。トヨタの事業方針やトヨタグループにおける商用車事業のあり方などを学びました。その上で生え抜きの商用車メーカーのプロとして、日野のあるべき姿の具現化を進めており、柔軟な事業戦略もその一部といえます。また、トヨタ 社長の豊田章男氏と良好な信頼関係が築けているからこそ、ライバルであるVWとの提携が実現できたともいえます。

いすゞの個性、LCVビジネス

 小型から大型トラックを中心とした事業を展開する日系商用車メーカーですが、いすゞだけ、他社にはない独自の事業を手がけています。現在日本では販売していませんが、ライト・コマーシャル・ビークル(LCV)と呼ぶピックアップトラックです。いすゞのLCVビジネスは、グローバル販売台数が34万2千台(2019年3月期)と商用車(CV)を超える台数を販売するなど、商用車と並ぶいすゞの主力事業と位置づけています。生産も行う主力市場のタイでは、トヨタ「ハイラックス」と1、2位を争うほどのシェアを確保しています。

 過去に乗用車まで手がけるなど全方位で自動車ビジネスを展開してきたいすゞの中で、商用車以外でLCVが唯一残った理由としては、同じくピックアップトラックを主力商品と位置づけるGMと共同開発を行っていたことが背景にあります。ただ、いすゞのLCVは最大積載量が1tクラスと比較的コンパクトな車両タイプで、北米市場向けのフルサイズピックアップトラックが中心のGMとは車格が異なります。このため2019年10月に発売した新型ピックアップトラック「D-MAX」ではGMとの共同開発を止め、いすゞ単独での開発となりました。

いすゞのもう1つの主力事業がピックアップトラック(クリックして拡大) 出典:いすゞ自動車

 GMとの共同開発を止めたことで、生産台数が減少し、スケールメリットによる収益性や開発費の回収などが懸念されます。しかし、ここでもいすゞは持ち前のフレキシビリティを発揮します。2016年7月、いすゞはマツダとピックアップトラックをOEM供給することで合意。マツダの1tピックアップ「BT50」の次期モデルとしてD-MAXを供給することで、生産ボリュームを確保する狙いです。

 マツダにとっても、タイやオーストラリアなどで戦うためには小型ピックアップトラックが欠かせません。一方で、近年の「スカイアクティブ」技術を活用した次世代商品群では乗用車とSUVの開発に特化するとともに、商用車生産から撤退する方針を表明しています。ピックアップトラックはこれまでフォード・モーターと共同開発してきましたが、次期モデルからいすゞからのOEMに切り替えることで、開発資源を乗用車とSUVに集約することができます。いすゞも台数確保で収益性を向上させることができるなど、両社にとってメリットの大きな提携といえそうです。

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