設備や機器の修理箇所をAIが高精度で素早く提案する修理リコメンデーションサービスだが、大まかに分けて2つの活用法が想定されている。1つは、障害発生時にコールセンターなどでの一次問診を経た後、その障害に対して最適な交換部品候補を提案するなどの二次問診で活用する「受付担当向けリコメンデーション」だ。もう1つは、障害が発生した現場での故障箇所特定などの作業を効率化する「保守担当向けリコメンデーション」である。
今回、日立システムズのATM保守業務で実証を行ったのは前者の受付担当向けリコメンデーションになる。同社 サービス・ソリューション事業統括本部 保守事業推進本部 部長の村松克昭氏は「当社は1970年代から、ATMをはじめとする国内のIT機器の保守業務を担当してきた。現在は約1000万台が保守対象となっており、国内で300拠点、2000人のエンジニアが対応する年間の問い合わせ件数は全国で130万に上る」と語る。
日立システムズはこれらIT機器の保守業務内容について、1980年代からIT化に取り組んでおり、現象、原因、対策といった形でデータ化してナレッジを蓄積していた。「これらのデータについてAIを活用できないかと検討していたところで、修理リコメンデーションサービスの実証に協力する機会が得られた」(村松氏)という。
今回の実証は、2019年末〜2020年春にかけて、日立システムズの横浜営業所における二次問診業務で実施された。効果としては、平均的スキルのエンジニアでも熟練者と同じ部品選択が可能になることで拠点間でのサービス品質が均一化されるとともに、部品選定に掛かる作業時間を約38%短縮できる見込みが得られたという。
樋口氏は「今回の実証で修理リコメンデーションサービスの有効性を確認できた。保守業務の課題をよく知る日立システムズと協力できたことには大きな意味がある」と強調する。村松氏も「保守業務はどうしても非効率に陥りがちであり、その効率化に役立つ“保守業務プラットフォーム”の需要は大きい。日立シスムズとしては、この保守業務プラットフォームを事業展開していく考えだが、その重要な機能として修理リコメンデーションサービスを組み込んでいきたい」と意気込む。
修理リコメンデーションサービスの導入は、立ち上げ、PoC(概念実証)、サービス利用という3つのステップを経ていくことになる。「ユーザーが抱えている課題に対応するためにデータから初期の分析モデルを構築していく立ち上げで2〜3カ月、PoCに3〜4カ月ほどかかると想定している。データが整理できているなど立ち上げ期間を1カ月程度に短縮できる場合には、システム開発を含めて1年以内に本格的なサービス利用を始められるだろう」(樋口氏)としている。
なお、今回開発した修理リコメンデーションサービスは“AIなどのデジタル技術を活用”していることが特徴の1つになっている。ただし、ここで言うAIなどのデジタル技術については、日立独自のものなどにこだわってはいないという。樋口氏は「ユーザーが持つデータや現場の求める声に合わせて最適なAIを選定することが重要だ。独自のAI技術がすごいとなってしまうと、現場の声が耳に入らなくなってしまう。すごいのはAIではなく現場であり、その現場が生み出すデータがなければすごいAIも生まれないからだ」と述べている。
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