MONOist 「Multiverse Mediation」とは具体的にどういうものなのでしょうか。
野中氏 従来は、技術伝承など全ての関係性が人から人へのものだった。それが現在は、機械やロボットの進展により自動化が進み、人が操作し機械が人をサポートするというそれぞれ一方通行の関係性が生まれている。ただ、こうした関係性では人は常に一方的に機械から支援を受け続ける存在であり、最終的には「人の退化」につながる可能性がある。
そこで、人が生涯にわたり創造性を発揮できる人間中心の新しい製造システムの姿として、「Multiverse Mediation」という考え方を生み出した。「Multiverse Mediation」の世界では、人と人、人と機械、機械と機械のそれぞれの関係性が、相互に発生し、これらが共通で持つデジタル知識基盤のようなものが生まれてくる。機械と人をまたいだ集合知のようなものが形成されるという考え方である。
従来は人の仕事が機械にとって代わるという考え方だったが、「Multiverse Mediation」では人も機械も成長することが可能で、それぞれの成長により社会が発展していくという未来像を描いている。ポイントは人と機械の関係性である。人の暗黙知を機械に転写するとともに、機械の把握した情報やノウハウを人に伝えることができる。こういう世界ができれば、機械が人の利き手などを読み取って自律的に対応したり、動きの癖に合わせてプログラムを書き換えたりすることが可能になる。
MONOist 「Multiverse Mediation」を実際に製造業に当てはめるとどういうことになりますか。
野中氏 1つの例としては、工作機械メーカーであるオークマとの共創がある。日立製作所とオークマは、オークマの工場のスマートファクトリー化に向けて2017年に協業し、さまざまな取り組みを進めてきている(※)。その取り組みの1つに、この「Multiverse Mediation」コンセプトを具体的な形にしたものがある。
(※)関連記事:スマートファクトリー化に向け実証開始、日立とオークマが協業
具体的に導入したのは「4Mロス分析サービス」である。これは、工場の中での工作機や構内物流、作業者の動作データなど、“人と機械”に関わる4M(人、機械、方法、材料)データを横串分析することで、作業者待ち・プログラム現場調整・切りくず清掃などによる「生産ロス」を可視化し、生産性改善につなげる分析サービスである。人と機械の情報を一元的に把握することで、ライン全体の動きを把握し、ロス削減を進める仕組みだと考えている。
MONOist 今回の共同研究を進める中で、特に感じたことは何でしょうか。
野中氏 今回の共同研究と白書の作成でよかったことは、日本とドイツの考え方が大きく異なるということが分かったという点だ。実現したい将来像のビジョンは同じなのに、背景や考え方が大きく異なり、そのギャップを見極めることができたのが大きな意味があったと考えている。
「人と機械の関わり」となると、文化的背景が大きく関係し、技術論だけでは語ることができない。地域ごとの相対化が非常に難しいということが理解できた。こうした「違い」を前提に進めていくということが重要である。今後は、他の国や地域とも同様の共同研究を進めていきたい。
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