機械は人を追い詰めるのか、日本とドイツに見る“人と機械の新たな関係”製造マネジメント インタビュー(2/3 ページ)

» 2020年04月21日 11時00分 公開
[三島一孝MONOist]

機械とロボットは「道具の1つ」という考えのドイツ

MONOist 具体的にはどういう議論があったのでしょうか。

野中氏 共通の社会的指標や調査資料を基に議論を進めていった。例えば、人口の減少率予測で見ると日本は世界で最悪の状況だが、「人材の質」の面で見た場合、世界4位とされており、ドイツの11位を上回っている。また、人件費はドイツを100とした場合、日本は82となっており、費用対効果の高い人材がそろっているといえる。そういう意味では、人口減少は問題だが、労働力の面では、世界の他の先進国と比べても悲観するほどの状況ではない状況も見えてきた。

photo ドイツを100とした場合の各国の人件費の比較(クリックで拡大)出典:「Revitalizing Human-Machine Interaction for the Advancement of Society

 一方で議論が分かれたのが、自動化や機械化で人間の仕事が奪われる職種があるという点についての点だ。マッキンゼー・グローバル・インスティテュートの調査「Jobs Lost, Jobs Gained: Workforce Transitions in a Time of Automation」によると、テクノロジーの進化により「専門知識が必要な労働」は増える傾向がある一方で「中程度のスキル(“認知”が必要な労働)」が機械に置き換わり減っていく傾向が示されている。しかし、日本、ドイツそれぞれにとっても機械に置き換えたい「低スキルの労働」については機械への置き換えが逆に難しく、現状とそれほど変わらずに残り続けるという調査結果が出ている。

 こうした状況に対し、日本側の主張は「だからこそ専門知識が必要な高度なスキルを備える人材を増やしていくべきだ」とさらに高度化を進める方向性を訴えた。一方でドイツ側は「自動化が進んでも機械に人の職が奪われるということはあり得ず、人の数は減らない」とする考えを示していた。

 日本側は文化的な背景なども含めて、ロボットや機械を同等の存在と捉えているところがあり、だからこそ人の仕事を機械やロボットが置き換えるということを身近に現実的なものとして感じられる。一方でドイツ側は、機械やロボットはノリやハサミと同じように「道具の1つ」という感覚だ。だから、自動化が進んでもこれらの道具を扱う人は変わらないという考えを訴えていた。ここは、それぞれの考え方が大きく隔たっており、一致しない点だった。

photo 自動化で増える労働と減る労働(クリックで拡大)出典:「Jobs Lost, Jobs Gained: Workforce Transitions in a Time of Automation

「人と機械の関係」への3つの提言

MONOist 最終的にはどういう指針をまとめることができたのでしょうか。

野中氏 一致するところやしないところさまざまな面があったが、白書の中では最終的に以下のように3つの提言としてまとめることができた。

  1. 社会の絶え間ない進化によって、以前は高付加価値だった仕事が、非高付加価値に変わっていくため、人や機械は、その変化に追従する必要がある
  2. 人は、機械が負うべき非高付加価値の仕事から、いつでも高付加価値の仕事に移行できるようにする必要がある
  3. 機械が非高付加価値の仕事を負うだけでなく、人と機械の絶え間ないやりとりによって、人と機械が高付加価値の仕事を生み出す必要がある

 具体的なところにまで落とし込むことはできなかったが、スマートフォン端末の進化などで見てきたように、AI(人工知能)など現在普及が進むテクノロジーにより、人の創造性が大きく伸びる可能性があるという点は一致した。

 この3つの提言において、新たな人と機械の新たな相互作用の仕組みとして日立製作所が訴えて白書にも盛り込んだのが「Multiverse Mediation(多元宇宙論的な調停)」という考え方だ。

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