会見で最初に登壇した、NTT 社長の澤田純氏のプレゼンは、社会情勢や自社の既存ビジネスなどを並べ立てただけで、中身が全くなかった。
環境保護と社会の成長はパラコンシステント(同時並列)での議論が重要。日本政府が推進するSociety 5.0の動きの中で、モビリティ、健康医療、教育、文化、経済、エネルギーなどが連携するべき。その上で、自社のスマートシティー戦略として札幌、千葉、横浜、福岡などで実証をすでに実施。2019年には他業種と連携するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network、アイオン)コンソーシアムを立ち上げた、などなど。
その上で「なぜ、いま、トヨタを組むのか?」との問いに、はっきりとした答えがない。
トヨタ 社長の豊田章男氏のプレゼンもNTT同様に、具体性に欠けた。
2020年1月に米ラスベガスでの家電・IT系国際見本市「CES 2020」で世界初公開した「MOVEN CITY」を話題の軸足として、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアード、電動化)やMaaS(Mobility-as-a-Service、自動車などの移動手段をサービスとして利用すること)といった言葉を並べただけ。
キモとなる「なぜ、今、NTTと組むのか?」については、「NTTは国家のような存在。トヨタは田舎の企業」といった、へりくだったような表現をあえて使うなど、資本業務提携の本質について明快な答えはなかった。
どうして、こうした具体性なしの会見になってしまったのか?
理由を考える上で、改めて確認するべきことは、記者発表資料の中にある、スマートシティープラットフォームに関するポンチ絵だ。
これは、データとサービスの連携を示す。データについて「様々な都市アセット」と明記し、その一部にNTTデバイスとデータ、トヨタのデバイスとデータが描かれている。
一方の「様々なサービス」では、環境エネルギー、運輸交通、生活・医療・健康、公共・行政、産業、教育・文化に分類し、その一部にNTTとトヨタそれぞれのサービスがあるとしている。サービスの先には「人々の豊かな暮らしに貢献」という文字が並ぶ。
そして、「様々な都市アセット」と「様々なサービス」をつなぐものとして、スマートシティープラットフォームを描く。
この程度では、まるでコンサルティング企業がMaaS関連のプレゼンで使い古したような、そんなイメージであり、がっかりした報道関係者や自動車および通信業界関係者が多いことだろう。
要するに、日本では社会全体を一元管理するMaaSを活用したデータプラットフォームの構築が、まだまだ進んでいないということを今回、トヨタとNTTが証明したようなものだ。
見方を変えると、日本はこうしたMaaSデータプラットフォーム構築に大きく出遅れている状況で、政府としてトヨタとNTTという超大手による“旗揚げ”をお願いした、といえるかもしれない。あくまでも“お願い”レベルであり、要請や要求といった強い言葉には至っていないと思われる。
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