これらの宇宙機器に用いられるプロセッサは、地球上で用いられる機器向けとは大きく異なり耐放射線性が必須となる。この耐放射線性という要件を満たすことが困難なこともあり、PCやスマートフォン向けプロセッサのように新規の製品が続々と投入されている状況にはなく、大手メーカーとしてはBAEシステムズ(BAE Systems)とコブハム・ガイスラー(Cobham Gaisler)の2社がある。BAEシステムズの「RAD750」や「RAD5500」はPower Architecture、コブハムの「LEON3FT」や「LEON4」はSPARC V8がベースになっているあたりからも、プロセッサアーキテクチャを大きく変更せずに製品開発が続けられてきたことが分かるだろう。
20年以上前から宇宙機器向けにVxWorksを提供してきたウインドリバーは、BAEシステムズとコブハムのプロセッサに対応するプロセッシングモデルやBSP(ボードサポートパッケージ)を用意している。ペティ氏は「これらのプロセッサとVxWorksを組み合わせることで、安価かつ高い信頼性の宇宙機器を開発することができる」と強調する。
宇宙機器の開発をさらに促進するツールとしてウインドリバーが提案を強化しているのが、仮想環境でのソフトウェア開発を可能にするツールキット「Wind River Simics(以下、Simics)」である。
Simicsは、ハードウェアの開発を待つことなくモデルベースのシミュレーションによりソフトウェア開発を進めることのできるツールだ。他社製のCAEツールなどとも連携可能であり“フルシステムシミュレーション”をうたっている。宇宙機器は、一般的な民生用機器や産業用機器と比べると高コストである上に、宇宙という実環境でのテストが行えないこともあってシミュレーションの活用がより重要になってくる。「大型の宇宙機器の場合、ソフトウェアの規模が大きくなり複雑性も高まるが、Simicsを使えばハードウェアの開発を完了する前に、試験、再試験、検証(Validation)のサイクルを先に終えることができる。また、コスト削減を重視する民間企業の宇宙機器についても、開発期間の短縮で役立てられるはずだ」(ペティ氏)。
NASAの火星探査機「マーズ・ローバー」をはじめ多数の採用事例があるVxWorksと同様に、Simicsにも既に採用事例もある。ジェネラル・ダイナミクス(General Dynamics)が開発した「フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡」は、ソフトウェアの開発に加えて、オペレーターの訓練にもSimicsを活用した。また、人工衛星スタートアップのAstranis Space Technologiesは、ブロードバンド環境の無い地域向けに快適なインターネットサービスの提供を実現する小型衛星「MicroGEO」の開発にVxWorksとSimicsを採用。開発期間の目標としていた12〜18カ月の達成に貢献したという。
ウインドリバーは、宇宙産業の市場規模で第5位につける日本にも熱視線を送っている。ペティ氏は「これまでも日本市場では、宇宙機器における通信や衛星誘導など、止まってはいけない、特にクリティカルセーフティが求められる用途では長く使ってもらっている。従来はJAXA中心だったが、民間企業の宇宙開発が大きく伸びている。宇宙産業への参入障壁はかなり小さくなっているのではないか。VxWorksとSimicsを活用して、安価で安全な宇宙機器の開発に貢献したい」と述べている。
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