部品ではなくクルマの性能を見て、モデルベース開発のための計測事業開始モデルベース開発(2/3 ページ)

» 2020年03月17日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

最終性能を視野に入れたモデル活用

 この計測設備は、早稲田大学の研究や、AZAPAが請け負った計測、AZAPAと早稲田大学の共同研究、貸し出しなどさまざまな形で利用する。欧州では企業が出資して大学のキャンパスに研究施設を設ける例が多く、AVLやFEVといったエンジニアリング会社のルーツもこうした産学連携にある。

 計測設備を利用したいサプライヤーが部品を持ち込むと、車両に組み付けた状態で計測が行われる。内燃機関向けの部品だけでなく、バッテリーやモーター、ワイヤハーネスなどパワートレイン以外の部品にも対応する。AZAPAや早稲田大学はその部品の制御モデルを開発し、サプライヤーはそのモデルを使って性能を設計することができる。

 計測設備を利用して、ある量産車のモデル化が既に完了しており、そのモデルを使ったパワートレインの改良に取り組み始めている。車両のデジタルツインを構築し、そのクルマに部品を供給するサプライヤーは自社の部品によってクルマの性能がどう向上するかを検討することができる。これは、日本の自動車業界のすり合わせ文化を生かすことにつながる。AZAPA 取締役の加藤丈晴氏は「日本はすり合わせ社会で、仕事を進める中でやりたいことが新しく出てくる。その、やってみてできなくてやり直すという流れの中で、モデルの活用は開発負担や試作コストを軽減できる」と語る。

部品を持ち込むと、車両に組み付けて燃費性能などを測定できる。モード走行に対応した温度や湿度も管理できる(クリックして拡大)

 これらのモデルは、経済産業省が推進する「SURIAWASE2.0」のガイドラインに準拠している。AZAPAの計測事業の顧問を務める早稲田大学 教授の草鹿仁氏は「この拠点での取り組みが、モデル同士をつなげて性能を開発するSURIAWASE2.0に向けた一歩になるのではないか」だと語る。

 また、草鹿氏は「自動車メーカーの人材はCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)に割かれる。パワートレインではサプライヤーの役割が増すのではないか。これは大学にとってビジネスチャンスでもある。3年をめどにフル稼働することを目指している」と述べた。サプライヤーの役割が増す中で受注するには、自動車メーカーに対して、自社の部品や素材でクルマとしての性能をどう向上できるか提案する必要がある。全ての提案に対して試作車を開発して検討する余裕は、自動車メーカーに残されていない。部品や材料の特性しかアピールできないのでは、採用を検討する土台に乗れなくなっていく。

 本庄キャンパスの現状の設備は、パワートレインの出力や熱、燃費などが測定対象となるが、恒温槽などの設備を今後増やすことも検討している。厳寒もしくは酷暑の環境下で電動車の熱マネジメントを検討する上で必要になる。さらに、AZAPAと早稲田大学は音や振動、乗り心地などを計測するための研究も進めている。計測装置やセンサーを活用することで、テストドライバーによる評価やテストコースでの走行テストの前に実験室内で一定の評価を行えるようにする。音に関しては、人間の耳にどう聞こえるかという視点で分析する。

 「テストドライバーが感じたことを数値に落としこめれば、設計の改良アイデアが出てきやすくなり、実際の走行テストの前にある程度の対策を打てるようになるだろう。また、人による評価のリソースを、パワートレインから自動運転やADASなどに割り当てる余裕も生み出せるのではないか。テストドライバーの仕事がなくなるわけではない」(AZAPAの担当者)

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