以降、Bsizeは必要以上の露出は避け、常に製品開発に集中し続けた。展示会に出たのも創業期の一度きりで、その後、国内外の展示会にも一切出ていない。八木氏はスタートアップがまず最優先すべきなのは、商品をいち早く顧客に届けること、そこから仮説を検証して、製品の価値を最大化させることだと力説する。
「スタートアップは早期に製品のマーケットフィット(顧客を満足させ、適切に市場に受け入れられている状態)を達成しなければ生き残れません。展示会で得られるフィードバックも重要ではありますが、どうしても表層的になりがちです。私たちは、誰かから批評をいただくとすれば、それがお叱りでも称賛でも、実際にお金を払って使ってくれる顧客の本音を一番に聞きたいと思っています。国内外の大きな展示会に出展してメディアに取り上げられるのは華々しいですが、その製品がユーザーに届けられないのであれば、事業の持続成長にもつながらず(参加する)効果も単発的です」(八木氏)
ハードウェアスタートアップが取り沙汰されるようになり、“オープンイノベーション”を大企業が模索し始めた当初、Bsizeにも多くのオファーが届いたというが、実際のアクションまで実ったケースはまれだった。
「これまで手掛けてきたプロダクトは最初のコンセプトから、さまざまな淘汰(とうた)を経て最終形にたどり着いたという自負があります。にもかかわらず、過去のボツ案を求められることが多々ありました」(八木氏)
社内ベンチャーイベントに呼ばれて、アイデアを出したものの、何もそこから発展することがないなど、イノベーションを目指しているはずの大企業の姿勢にも疑問符が付くケースも多かったという。
「一概には言えませんが、『革新的なことをしろ』とアクセルを踏む一方で、前例がないことだとブレーキを踏んでいるように感じる例もありました。また、新規事業を始めるにも、解決したいこと、実現したいビジョンが先にあるはずで、その実現のために手を尽くして世を革新できたら、結果それがイノベーションだったというだけです。イノベーティブだからやるのではありません。ビジョンなしに、あれができないか、これができないかと模索するのは、手段が目的化しており、成果を創出するには再現性に乏しいのではないでしょうか」(八木氏)
メイカームーブメントに併せて、「DMM.make AKIBA」やTechShop Tokyoといったハードウェアスタートアップ向けのコワーキングスペースも誕生したが、当時、既に必要な開発環境がそろっていたことや、新たな製品開発に集中していたこともあり、Bsizeとして特に利用する機会はなかったという。
こうして、Bsizeは日本版メイカームーブメントの波から一定の距離を置きつつ、VC(ベンチャーキャピタル)や事業会社からの出資も受けることなく、独立独歩でプロダクトを開発し続けてきた。
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