現場の管理監督者の管理目標は、作業者の能力を最大限に発揮させ、第一線の経営者として企業の業績に寄与するとともに、作業者の価値をより高くしていくことと要約できます。そのためにいかにIE(Industrial Engineering)※1)を駆使するかということに尽きます。
※1)IE(Industrial Engineering):経営上の問題の合理化を科学的な手法に基づいて推進していくこと。主として、人材、設備、材料を生産資源として科学的アプローチによってより効率的な生産システムを設計・推進していく管理技術である。
ここで、最も基本となるIE手法は、作業測定と標準時間を活用した科学的な管理法が有効です。標準時間の設定は、まず作業方法をその時点で考えられる最も合理的な作業に整えることから始まります。これが、作業の標準化です。次に、この方法で行う限り、誰がその作業を行っても同じ時間で作業できるはずだという根拠に基づいて標準時間を決定します。こうして科学的に決められた最も経済的な方法と、それを基にして決められた正しい標準時間で管理すれば、管理監督者は、容易に作業者に仕事とその完成に必要な人数や時間を示すことができるはずです。
作業者が与えられた作業を計画された時間で果たすことは、普通の能力をもった人間であれば当然であると考えます。そしてもし、標準時間通りにできなければ、その原因が何であるか作業者と一諸になって検討し、より良い方法、動作のムダ、管理のムダなどを究明していきます。また、作業速度の基準について正しく作業者に理解してもらうこともできます。そして、こういったことが作業者の能力を引き出し、作業者の価値を高めることにつながっていきます。
それでは、こうした作業測定や標準時間といったものは、どのようにすれば駆使できるようになるのでしょうか。それには、まず手法を完全に理解することが必要不可欠です。標準時間自体は、専門のIE担当者が設定しますので、現場の管理監督者は、自分で時間研究をやって標準時間を決めるという機会はほとんどないかも知れませんが、標準時間の信頼度や限界などを含めてその内容をある程度は熟知していなければならないことになります。そのためには、標準時間の設定の手順を一度つぶさに経験してみることが最も良い方法であり、極論としてはこれしかないとさえ言われています。ほんの1つか2つの方法でも構わないので、自分で作業測定を体験し、標準時間を設定してみて、初めてその真の意味を理解することができます。また、そのことによって、実際に標準時間を活用するときに大きな自信となっていきます。
もう1つ重要なことは、方法研究、作業測定、標準作業などをIE手法の基礎として学び身に付けていく過程で、この最も基本的で古典的なIEの中に、現場の管理監督者が自身に「モーションマインド」※2)、すなわちIE的な物の見方を学ぶということが含まれているということです。
※2)モーションマインド(Motion Mind):動作経済の原則をベースとした改善に対する感性というべきもの。モーションマインドは、動作の良しあしに関する「勘」のようなもので、ムリ・ムダ・ムラ動作を感知するセンスともいえる。常に改善点が無意識のうちに発見できるまでに、問題発見の常識を備えた感性のこと。
これらの基本的な手法は、直接作業改善に役立つだけでなく、IE的な分析を繰り返し体験していく内にモーションマインドが作り上げられていくということに大きな意義があります。一度体験的にモーションマインドを作り上げた人は、単に動作の改善に役立つばかりではなく、その考え方や心構えを他の問題にも利用でき、管理監督者を担当職場の経営者へと進歩させる原動力となっていきます。
フレデリック・テーラー※3)が先駆者となった作業測定や標準時間の設定を中心とした科学的管理法は、確かに第一線の管理監督者の作業管理のツールとして極めて優れた方法であることは論ずるまでもありません。しかし、それ以上にもっと大きな意味で大切なのは、それらの手法を通して習得できる管理監督者自身の意識の変革であり、現場の経営者としての自覚を自然と芽生えさせることなります。標準時間1つにしても、これを経営的意味で捉え、現場の作業管理に活用することと、いつまでも標準時間が甘い、辛いなどと議論をしているのとではその現場の成長としてどちらが良いかはいうまでもありません。
※3)フレデリック・テーラー(Frederick.W.Taylor):テーラーが著した「科学的管理法(Scientific Management)」は、成り行き管理だったそれまでの作業現場に科学的管理を導入し、テイラーシステムとも呼ばれる。現代の経営学、経営管理論や生産管理論の基礎となっている。
標準時間は、作業者の働き方を監視するためのものだと誤解している向きがあます。作業者はおおむねそのような感じ方をしているものです。なぜこのような誤解が起こるのでしようか。
標準時間を決める場合、専門的にいろいろな技法が使われますし、標準時間を決めるまでには、多大な人手と工数を費やします。現状分析、測定、作業改善、方法の標準化、そして標準時間の設定という手続きを踏みますから、標準時間の設定という仕事は、片手間でできる業務ではなく、専門的技法をマスターした技術屋さんたちが多数動員されて、何力月もかかって作り上げることになります。
このように多くの工数をかけて作り上げた標準時間ですから、その当時においては、おそらく現場の実情にマッチした正確な時間であったはずです。しかしながら、数年もたつと、標準時間の見直しとか、ST純化活動とかいって大騒ぎし、大々的に測定をやり直さなければならない事態が生じてきます。ここでは、そのような2つの問題について考えてみたいと思います。
おそらく多くの現場の管理監督者は「標準時間は、作業者の働きっぷりを監視するための道具としてある」という考え方は、作業者の誤解だと感じていると思います。現場を管理する側に立つ者は、そのように思っていますし、理屈としても間違いではありません。しかし、作業者は必ずしもそう思ってはいません。彼らは理屈抜きに、作業能率、習熟度、作業日程管理などで、「自分たちは標準時間によって管理されている」と感じているのです。
現場の管理監督者の立場にある人は、標準時間設定の目的を正しく理解しています。しかし、そうした頭の中の理解と、管理者が現実に行っている行動の間にはかなりのギャップがあり、作業者の能率を管理することに熱心で、それ以外の管理にはあまり注意を払っていないことが多いのです。
ここで、工場管理の中で標準時間が果たしている役割を考えてみます。生産行動が効率よく行われているかどうかを常時把握して、必要なアクションをとっていくのが現場管理の中心的業務ですが、管理する以上は必ず目標の設定が必要です。この目標は標準時間というメジャーを基礎にして作り出されますが、その限りにおいては、標準時間が作業者を監視するためのものだという誤解が生れる余地はありません。
ところが多くの実態は、表1の中では作業者の能率管理の基準として標準時間を使うことに熱心であり、その他の項目についてはあまり注意が払われていないことが多いのです。しかも、現場の作業方法は改善などによって変化していくのに、標準時間の方は改善に即応して細かなメンテナンスがなされていないのが実情です。
そんな状態ですから、作業者は現場の実体と標準時間との間に生じた大きなギャップを誰よりも早く知ります。作業者が、管理監督者側や標準時間を担当する生産技術者に申し出なければ、このギャップはいつまでも訂正されず、ますます大きく差が開いていくことになります。管理監督者は、このような標準時間を基に能率管理をやることになりますから、標準時間に対する作業者の信頼は、ますます薄らいでいきます。
これでは作業者が、「標準時間は、自分たちを監視するためのものだ」と感じるのは、無理からぬことだといえます。標準時間を設定し、これを運用管理する側に立つ者として、この点は十分に反省しなければならなりません。
(1)製品または部品の製造原価算出の基礎となる加工費を見積もるため
(2)製造方法の差による得失を比較検討する基礎とするため
(3)生産日程計画や工数負荷計画など、生産管理の基礎とするため
(4)生産に必要な人員や機械設備台数などを決定するため
(5)外注先への発注単価決定の基礎とするため
(6)原価管理や在庫管理の基礎とするため
(7)生産効率や作業能率測定の基礎とするため
(8)作業訓練の基礎とするため
(9)その他
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.