標準時間は働き方を監視するためのものではない? 現場管理監督者の役割とはよくわかる「標準時間」のはなし(13)(3/4 ページ)

» 2020年02月20日 10時00分 公開

3.3 現場の第一線管理監督者のリーダーシップとパフォーマンス

 一口に労働生産性といっても、その中には2つの要素が含まれていることに注意しなければなりません。1つは、設備の規模や性能などを含めた作業方法による生産性であり、もう1つは、同じ設備、同じ作業方法でも差が生じる生産性で、人の配置の仕方、一人一人の仕事ぶりなどによるもので、いずれの場合もパフォーマンス※4)と呼ばれているものです。

※4)パフォーマンス(Performance):パフォーマンスは、あらゆる方面でよく使われるが、仕事のパフォーマンスとは、仕事ぶり、業績、腕前、能力、成績、売り上げ、出来高などの意味を持っている。ビジネスにおける「パフォーマンスが悪い」を使った例としては、仕事ぶりが悪い、業績が悪いなどの意味で使うことがほとんど。

 パフォーマンスは、現場にいる一人一人の作業者の行動の総和で決まります。例えば、一人の作業者が今日やらなければならない仕事の内容がよく指示されていなくて、半日もまごついていたとすれば、彼の生産性はそれだけ低下します。あるいは、たとえ細かく標準作業が決めてある作業でも、作業者がその方法を十分に訓練されていないために、思い付きの方法で作業をしていれば、たちまち20〜30%は作業時間が伸びてしまいます。また、よく仕事の内容を検討して一人一人の仕事の手順を決める場合と、目見当で人数を決める場合を比べると、所要人員が2倍以上になってしまうことさえあります。

 こうしたパフォーマンスは、日常のきめ細かい注意をするか否かで決まってしまうのです。この絶え間ない配慮が、今まで、企業の中で実施されていたとは言い難く、こうした実直な努力の積み重ねは、驚くほど大きな生産性の向上に寄与していくことは明らかです。

 今までの企業では、このような業務を本当の意味で自分の使命として考えて実行する人はあまりいませんでしたが、これこそ、いつも現場にいて作業者と接し、常に作業を見ている現場の管理監督者以外の誰にもできない仕事であるといえます。しかも、この仕事は、これからの企業の生産性向上の最も大きな「宝の山」なのです。

 作業者のパフォーマンスは、作業者自らの意志や意欲で大幅に変わるものです。しかし、これらの意志や意欲は、管理監督者の強力なリーダーシップでその潜在する能力を引き出せるということを忘れてはなりません。

3.4 標準時間設定の業務はスタッフの仕事、管理監督者は考え方を理解せよ

 作業測定であるとか、標準時間というものについて、作業者はもちろん、現場の管理監督者はある種の拒否反応のような感覚を持っているものです。この拒否反応を取り除いて、真に第一線経営者としてふさわしい現場の管理監督者として成長していくためには、IEの基礎となる作業測定の概念を正しく理解しておくことが必要です。

 しかし、作業測定を行って標準時間を決めるという仕事は、あくまでもスタッフの担当生産技術者の仕事です。現場の管理監督者が片手間でやれるほど簡単な業務ではありません。管理監督者は、作業の不具合を定性的あるいは定量的にチエツクしたり、改善したりする過程で、必要に応じて自らも測定してみればいいのです。現場の管理監督者が、スタッフのように手を汚さずに、四六時中PCや紙の上で仕事をするようになってはおしまいです。管理監督者や現場リーダーの本分は、あくまでも泥くさく汗くさいものの中にこそあるのだということを忘れないでいただきたいと思います。

3.5 現場の第一線管理監督者も一考を

 現場の管理監督者は、作業方法や機械設備などの改善には最大の関心と熱意を示し、それなりの勉強をしていますが、どうも、管理技術についてはあまり熱心ではないように思います。第一、管理技術をそんなに重要な仕事だとは思っていないようです。

 管理技術と固有技術のどちらが重要と考えてもそれは自由ですが、これからの現場の管理監督者は、少なくともそれらに正しい理解を示すだけの努力はしなければならないと考えます。

 標準時間は、現場へ行って時間を測れば決められるものだと考えたり、請負制度をやっていないから標準時間など決めなくともいいと真面目に思っていたりという、誠に幼稚な認識しか持っていないようでは、管理監督者の職責は全うできません。現状を鑑み、もう少しIEの基礎的なことは勉強しておく必要があると考えます。

 フレデリック・テーラーによって代表される基本的IE手法は、スタッフである生産技術者よりも、むしろ管理監督者をはじめとする現場のリーダー層が身に付けて日常の業務改善に使っていくべき性質のものなのです。

 かつて、標準時間に関するセミナーの受講生に、以下の3つの選択肢を用意して「これからの現場の管理監督者は、作業改善、工程分析、標準時間の設定などを中心とした、いわゆる基礎IEの技法を自由に使える能力が必要だという意見がありますが、あなたはどう思いますか」と質問をしてみたことがありました。

  1. IE専門家に任せるべきだ
  2. 現場の管理監督者として当然具備すべき基礎技術だ
  3. 基本的には生産技術者の仕事だが、現場の管理監督者としても知っておいた方がよい

 ところが、1.と答えた受講生が一人もいなかったのをみても、それをうかがい知ることができます。この間の事情を表2のように区分して、管理監督者の担当すべきIEと、生産技術者が受け持つべきIEをまとめました。

管理監督者の領域 生産技術者の領域
改善技術
Method Engineering
技法:
動作分析、作業分析、工程分析などの分析手法
目的:
作業や工程の経済化、モーションマインドの醸成
技法:
システム分析などの近代的分析手法
目的:
経営効率の向上、マネジメントの改革、システム化の促進
作業測定
Work Measurement
技法:
時間研究の種々の手法
目的:
標準時間の設定作業レベルでの科学的管理の確立
技法:
ORなどの近代的測定法
目的:
経営効率向上のための標準資料の決定、情報システムの設計、経営レベルでの科学的管理の確立
表2 管理監督者領域のIEと生産技術者(専門家)領域のIE

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