「つながるクルマ」が変えるモビリティの未来像
連載
» 2020年02月18日 11時00分 公開

100年のしがらみを突き破る、パナソニックのモビリティ変革とその第一歩MONOist IoT Forum 大阪2020(前編)(2/2 ページ)

[三島一孝,MONOist]
前のページへ 1|2       

ラスト10マイルのモビリティをどう変えるのか

 モビリティソリューションズの具体的な取り組みとして、まずはこの「Will」起点でビジョンの作成を行った。モビリティの進化によって人々は移動の自由を得た一方で、交通弱者を生み出したり、交通事故や排ガス問題を生み出したりしてきた。またモータリゼーションの進化により町の中心が「乗り物」を中心に作られるようになり、人のスペースが追いやられることになった。パナソニックでは「こうした乗り物中心の世界ではなく歩行者が中心の世界を描きたいと考えた。『クルマ中心から人中心の町へ』と人の生活圏で考えていく」(村瀬氏)。

 そこで打ち出したビジョンが「Last 10-mile」である。人の生活圏として10マイル(約16km)圏を想定し、その中で最適なモビリティシステムを構築することで、人やコミュニティーの活性化を目指すというものだ。その具体策として、道路に新たに「緑道」を加えることを訴える。「緑道」は一般的には「都市部を中心に設けられる、歩行路や自転車路を主体とした緑地帯」だとされているが、パナソニックが考える「緑道」は歩道と車道の中間で、低速モビリティでの移動を中心とする道路として位置付けている。「緑道」での移動を低速モビリティに担わせることで「Last 10-mile」での人の交流やコミュニティーの活性化を目指すというものである。

 「現在は移動といえばクルマが中心となっているが、歩行とクルマ移動の中間となる存在が生まれることで、そのエリアでの人の移動が活発化する。車や鉄道での移動から『緑道』で低速モビリティに乗り換えるマルチモーダルハブを実現したい。モビリティでも用途に合わせた水平分業を行うイメージだ」と村瀬氏は語る。

 ただ、パナソニックそのものが不動産デベロッパーになるわけではなく、これらの町の中での「ペイン(不便な点、悩みの種)」を見つけて解決することを目指す。「実際にモビリティソリューションズのメンバーではニュータウンでそれぞれに老夫婦やファミリー層、大学生などそれぞれの役割で町を歩き、ペインを探すような取り組みを行ったが、それぞれの立場で考えてみると、さまざまなペインがあることに気付いた。モビリティの在り方としても考えるべきことは多い」と村瀬氏は語る。

 これらの取り組みを含め「『Will』で考えて、仮説検証を進めることでこれらを解決していく。『Can』で考えると、こうした発想は生まれてこない。パナソニックとして100年のしがらみから解き放ち、ペインを次々に解消する取り組みを進める」と村瀬氏は従来とのアプローチの違いを説明する。

モビリティソリューションズによる「ペイン」解決の取り組み

 実際に取り組みの1つとして紹介したのが、パナソニックが本社エリアで展開している「自動運転ライドシェアサービス」である(※)。「これは社員のペインを解決したものだ。本社エリアには、1万人以上の社員が勤務しており、さらに広い敷地をまたぐ移動が必要になる。これらを解決するために低速の自動運転カートを運行した。定期運行を行うものと、アプリでの呼び出しで個別運行するものを用意している。これは実験ではなく、総務が主体となり本番運用をしているという点がポイントだ」と村瀬氏は述べる。

(※)関連記事:パナソニックが46万m2の本社敷地で自動運転シャトル、目指すは人中心の街づくり

 国内では自動運転サービスの本番運用を行っているところは少なく、これらのノウハウを得られる点も利点だとする。「自動運転技術を研究開発しているところは既に全世界に数多くの企業が存在し、シリコンバレー企業などに勝てるかというと難しい。しかし、サービス運用はローカルでのすり合わせが必要になる。そこにパナソニックの強みがあると考えている。パナソニック本社エリアの敷地内には交差点やトンネルやラウンドアバウト(環状交差点)などもあり、自動運転に関するさまざまなノウハウを得られる。また、遠隔操作による対応など、非常時対応のノウハウも得られる。アナログ領域の解決策が必要で、そこに勝つ道がある」と村瀬氏は語っている。

photo 本社エリアでの「自動運転ライドシェアサービス」のイメージ

 一方で、中国における充電マネジメントサービスへの取り組みなども紹介する。EV(電気自動車)が普及する中で車載用バッテリーの性能に注目が集まっているが、バッテリーは特性的に充放電を繰り返すと劣化する。そのため、EVも搭載バッテリーの使用状況によって、同じバッテリー残量だったとしても、あるクルマでは100km走るが、別のクルマでは50kmしか走らないというようなことが起こり得る。そこで重要になるのが個々のクルマにおけるバッテリー状態の管理である。

 村瀬氏は「EVのバッテリー問題では実際に中国でも困っている人がたくさんいた。パナソニックでは充放電の様子からバッテリー状態を推測し残量を予測するバッテリー管理技術を持っており、これを使えば何とかなるのではないかと考えた。これもさまざまなパートナーと組みながら徐々に形になりつつある」と説明する。

日本企業がデジタル変革で勝ち残る道

 これらの取り組みを続ける中で村瀬氏が強調するのが「いかにローカルでペインを押さえるか」という点である。「GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon.com)などのIT大手などに対し、グローバルでのITの枠組みで勝負するのは難しい。しかし、ローカルやフィジカルの領域ではパナソニックを含む日本の製造業に強みがある。この間の領域でいかに解決すべきペインを見つけるかが最大のポイントだ」(村瀬氏)。

 IoTやAIなどを活用することを考えた場合、データをどれだけ集めて持っているかが重要だとも指摘されるが「データはなくても解決したいペインや、解決した先にあるべき『Will』が明確になっていれば問題ない。これらに共感してくれた顧客やパートナーがデータを提供してくれるようになる。それがモビリティソリューションズで1年間取り組んできた中での実感だ」と村瀬氏は逆の考えを示す。

 さらに、「AIやIoTなどのツールについても今はさまざまなベンダーがサポートしてくれるので心配しなくてもよい。すり合わせやローカルでアナログなものなど、まずは得意な領域で違いを生み出すことが何よりも重要だ」と村瀬氏はあらためてポイントを強調した。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.