モデルベース開発は、自動車メーカーやティア1サプライヤーだけのものではありません。ティア2以下のサプライヤーや中小企業にも無関係ではないのです。また、モデルの活用を「やらなければならない」と思うのではなく、自分のためでもいいのです。
若手エンジニア八木崎が勤めるのは、中堅サプライヤー五本木工業。取引先の自動車メーカー亜細亜自動車から「次期モデルの開発では、ウチに合わせてモデルベース開発をやってほしい」と強い要望を寄せられていた。
ただでさえ日々の仕事量が増えている中、なぜあらためてモデルベース開発に取り組まなければならないのか、八木崎は亜細亜自動車の真意をつかみかねていた。また、八木崎の目には、自分の上司さえその真意を理解できているようには見えなかった。
大学の先輩で、自動車メーカーのアトランティックモーターで働く武里に相談に乗ってもらう中で、モデルとは何か、なぜ今モデルベース開発が必要か、考えるヒントを得る。そして、先日話し足りなかったことを相談すべく、八木崎はまた武里に会いに行く。
先日はありがとうございました。あれから少しずつ、自分でもいろいろ調べています。でもまだピンとこないことが多くて……。
日曜日の午後、2人はカフェにいた。前回の悩み相談の中で、武里は「自動車メーカーとサプライヤー、企業と大学などの間でモデルをやりとりしていくために動き出す時期なのではないか」と指摘した。八木崎は、モデルのやりとりについて亜細亜自動車と対等に話すには理解が足りていないと感じていた。
何を目標にするかにもよると思いますが、「モデルを使うことで開発が効率化した」っていえるようになるにはどれくらいの期間がかかりますか。
うーん。本当に一概にはいえないけど、年単位を覚悟すべきじゃないかな。手戻りが減るということであれば実感は早いかもしれない。自動車メーカーの立場でいえば、「新型車の開発が効率化した」「開発期間が○割短くなった」というには相当時間がかかるはずだ。
ね、年単位ですか……!
電気自動車(EV)の開発にモデルベース開発を取り入れている他社の例だけど、「EVのラインアップが一巡するまでは、本当に開発期間が短くなるとはいえない。一巡して蓄積ができてからが本領発揮だ」という話を聞いたよ。
その人は「今はまだ、手探りや試行錯誤が多いから、開発のスピードが上がったという段階ではない」とも言っていたね。
すぐにはスピードが上がらないのかあ……。
サプライヤーの立場ではもうちょっと違うかもね。自動車メーカーの立場ではそんな感じかな、と思うよ。それより大変なのは、仕事の進め方が変わるってことかもしれないな。上司の受け売りだけどね、ツールを使いこなせるだけの人が増えても、モデルベース開発を実践できているとはいえないから。
何がそんなに大変なんですか? いや、簡単だと思ってるわけではないですけど。
会社の姿勢ごと、変わらなければならないと上司から聞いたことがある。例えば、八木崎だけで全てを設計しているわけではないだろう。八木崎の部署だけで全部やっているわけでもない。八木崎や、八木崎の部署だけがモデルの活用に力を入れても、他の部署がやり方を一切変えないのであれば、真価を発揮しない。
指揮をとる人が必要だし、モデルを活用することが会社から評価される土壌も必要だ。「自分が与えられた仕事はコレ」と決めつけて、全体像を見ようとしない人にも変わってもらわなければならないと上司は言っていたよ。
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