製造業における未来型思考 〜自ら未来を創り出せる力を身に付けるために〜次の世代に向けて(1/2 ページ)

今、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しながら、自社の製品やサービスの未来戦略をデザインすることで、新たなビジネスをプロデュースできる人材開発が急務となっている。本稿では、近年話題の「製造業における未来型思考」について取り上げ、その考え方のヒントを提示する。

» 2020年01月09日 10時00分 公開

 今、未来思考を起点とした新規事業構想づくりができる人材が求められています。とりわけ製造企業では、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進しながら、自社の製品やサービスの未来戦略をデザインすることで、新たなビジネスをプロデュースできる人材開発が急務です。本稿では、筆者が参加している産学連携活動の中で、最近話題となっている「製造業における未来型思考」について、活動メンバーらの議論の一端を紹介します。

1.未来思考へのきっかけ

 1970年春、大阪万博 EXPO'70のパビリオンに展示されていた未来の技術の数々は、当時の来場者の想像をはるかに超えた夢の世界でした。ワイヤレステレホン、テレビ電話、電気自動車、動く歩道、人間洗濯機、富士山麓の新居住区構想など、現代でいえば、まさにAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)技術を駆使したスマート製品サービスです。小学1年生だった筆者も、それぞれの先進企業が打ち出した未来の技術に心が躍らされ、実現性には半信半疑でありながらも、自分が大人になったときの未来の暮らしを考える良いきっかけを与えてくれた気がします。

画像はイメージです(iStock.com/PhonlamaiPhoto) 画像はイメージです(iStock.com/PhonlamaiPhoto)

 あれから50年、当時描いていた未来のコンセプトは、現代における私たちの日常生活の中に、着実に浸透しはじめています。いつの時代でも、製造業は人々のライフスタイルや働き方の未来を先取りし、革新的な製品を考案して、画期的なサービスを事業化する使命があります。わが国では、創業100年を超える製造企業が多いですが、これは、社会の変化や個々のユーザー嗜好への柔軟な対応力を強みに、製品イノベーションとプロセスイノベーションを愚直に実践してきた成果といえます。世間から「技術で勝って事業で負ける」や「安全神話の崩壊」といった非難にさらされていても、伝統ある企業には、それを乗り越えられる確固たるインセンティブがあります。そして、あらゆる困難に立ち向かいながらも、次の100年に向けて新たな舵を切っています。

 昨今、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する企業が多くなりましたが、DX推進メンバーは新しいデジタル技術によるビジネス変革によって、企業競争力を高める活動に取り組んでいます。ところが皮肉なことに、AIやIoTといった最先端のテクノロジーでデジタル変革を推進すればするほど、それまで強みであった自社のビジネスモデルが足かせとなり、劣勢となるジレンマを抱えてしまいます。思い切った未来戦略を構想することは魅力的ですが、現代の常識が通じない未来に身を置けば、その対象となる課題は自らで発見しなければなりません。

 2025年、再び大阪で万国博覧会が開催されます。「いのち輝く未来社会のデザイン」がテーマです。次の50年先にある暮らしや仕事を支える未来の製品/サービスを、どのような思考でデザインすればいいのでしょうか。

2.未来の製品アーキテクチャ通論

 50年前に思い描いた未来の乗り物や生活家電のコンセプトの多くは、既に身近な製品として人々の暮らしを支えています。単に、モノの機械的なメカニズムだけでなく、膨大なソフトウェアが組み込まれた複合的なプロダクトです。加えて、インターネットに代表される情報コミュニケーション技術によって、人々が遠く離れていてもリアルタイムに交信し、エンドユーザーが好むコンテンツをきめ細かく提供するサービスが実現できています。

 しかし、その内部構造は非常に複雑です。ここでいう「プロダクト」とは、メカ/エレ/ソフトの複合的製品であり、特にソフトにおいてはOS、ミドルウェア、そして利用者個々の好みに応じて外付けで実装されるアプリケーションソフト(いわゆるアプリ)の3層構造となります。プロダクトにインストールされたアプリによって、プロダクト利用者にさまざまな便益を「サービス」として提供します。スマートフォン(スマホ)の地図アプリにおける最適ルート検索や予定到着時間表示、列車の乗り換え案内、運賃の自動計算などは、まさにその典型例です。スマホの画面上に表示される文字、画像、動画、音声は、サービスの価値を特徴付ける重要な「コンテンツ」です。例えば、SNSサービスやネット通販サイトは、個々のユーザーの操作履歴や好みに応じて、大量のコンテンツの流通を支える情報基盤環境を運営しているのです。そして、コンテンツを流通させるためには、ICTによる「コミュニケーション」手段が欠かせません。これにより、プロダクトを利用するユーザーとサービスを提供する企業間で、情報やコンテンツのやりとりが安全かつスムーズに行われます。

 未来の製造業は、このような複雑化した製品アーキテクチャと、常に向き合い続けることになります。全ての企業が、プロダクト、サービス、コンテンツ、コミュニケーションの4つの価値を備える必要はないかもしれませんが、自社製品の未来の製品アーキテクチャを設計する際には、抑えておくべき重要な戦略オプションといえます。

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