5G、ローカル5Gに限らず、新市場として最も大きな成長が期待されているのが製造業の工場である。
例えば、ノキアの調査によれば5G時代の産業IoT市場は全体で320兆〜900兆円の規模になる見込みだが、このうち約130兆〜400兆円が工場向けだとしている。同じく通信機器大手のエリクソンは、産業界でのICT関連収益と5Gの寄与予測を発表しており、2030年時点における産業界全体のICT関連収益は3.8兆米ドル(約410兆円)で、5Gによる通信事業者の収益は7000億米ドル(約75兆円)に達するとみている。この7000億米ドルのうち19%に寄与するのが製造業(工場)だ。
JEITAはローカル5Gの需要額見通しの中で、SI開発やソフトウェア、アウトソーシングといったソリューションサービスの日本需要額について分野別で発表している。2030年の分野別ソリューションサービス日本需要額でダントツの1位になったのは製造(工場)であり、全体の6960億円のうち半分以上を占める3565億円に達している。
工場における5G導入はさまざまなメリットが考えられる。例えば、NTTドコモやノキアと組んで工場5Gの実証実験を行う予定のオムロンは、生産ラインのレイアウト変更を柔軟かつ容易に行える「レイアウトフリー生産ライン」を実施する予定だ。また、2019年9月に5Gを活用した製造現場の高度化に向けて提携を発表したファナック、日立製作所、NTTドコモの3社も、基本的に有線でつながっている工場やプラント内の通信ネットワークを完全無線通信化することも視野に入れた取り組みを進めるとしている。
これらが可能になるのは、5Gが有線ネットワークと同水準となる「超低遅延」を実現できるからだ。そして、生産ラインが有線ネットワークから解き放たれれば生産ラインを自由に組み替えられるようになり、本当の意味でのマスカスタマイゼーションの実現に近づけられる。
また、「超高速通信」により高精細な映像データを用いたAI(人工知能)の活用にもつなげられる。オムロンは、作業者に最適な作業手法をリアルタイムで伝える「AI/IoTによるリアルタイムコーチング」というユースケースにも取り組んでいく方針を示している。
組み立て製造業の工場だけでなく、広大な敷地を使ってモノづくりを行うプラントでも5Gは有効活用できる。各装置や設備に組み込まれた多数のセンサーデータの収集を、1つの基地局だけでカバーできるとともに、閉域網であることでセキュリティの確保も可能になる。
さまざまな可能性を有するローカル5Gだが、かつてのIoTやAIと同様にバズワードと化しており、期待値が高まり過ぎている段階にあるかもしれない。
NECは、ローカル5Gへの市場参入を発表した会見で、ローカル5Gのコスト目安として1プロジェクト当たり数千万〜数億円の投資規模になると説明している。これだけのコストが必要になる以上、ローカル5Gの必要性をしっかりと検討する必要があるだろう。例えば、単に無線化したいだけであれば、Wi-FiやBluetooth、キャリアのLTEネットワーク、各種LPWA(低消費電力広域)ネットワークなどの方が最適かもしれないのだから。
コストメリットに見合うのか、その価値を見つけ出せるのか。そのことがローカル5Gの可能性を生かしていく上でのポイントになっていくだろう。
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