本連載では、応援購入サービス(購入型クラウドファンディング)「Makuake」で注目を集めるプロジェクトを取り上げ、新製品の企画から開発、販売に必要なエッセンスをお伝えする。第11回は、PC/デジタル周辺機器メーカーのサンワサプライが開発した、縦にも横にも、自由な方向に差せる新型電源タップを取材した。
市場環境が変わる中、B2B事業で培った技術を生かして新たにB2C製品を作るモノづくり企業が増えている。大きなチャンスだが、今までと異なる機軸で新製品を作る上では大変な苦労もあるだろう。本連載では応援購入サービス(購入型クラウドファンディングサービス)「Makuake」のプロジェクトをピックアップし、B2C製品の企画から開発、販売に至るまでのストーリーをお伝えしたい。
日常生活の中で「そういうものだから仕方がない」と、ちょっとした不便を受け入れてしまう場面は少なくない。
例えば、電源タップでは、コンセントが一方向にしか差せない、大型のACアダプターを差すと隣の口が使えなくなる、といった問題が典型だ。その結果、アダプター同士が干渉して使えない差し口ができたり、机上やオフィスの配線を整えたくてもタップの向きがそろわず見た目が乱雑になったりする。
しかし、こうした「仕方がない」という前提を疑い、解決を試みることこそが、ユーザーの満足度を大きく高める手掛かりになる。
そんなユーザーの小さな不便に正面から向き合い、難しいとされてきた技術的課題を克服して製品化したのが、PC/デジタル周辺機器メーカーのサンワサプライだ。
PC用アクセサリーやオフィス家具など、これまでに約1万3000アイテムを企画/開発し、幅広いユーザーに届けてきた同社は、縦にも、横にも、間にも自由に差せる独自構造の電源タップを考案し、3年もの歳月をかけて完成させた。
今回は、そうした既存製品の「当たり前」を変えた開発の舞台裏を、サンワサプライの担当者に聞いた。
――サンワサプライでは長年にわたりPC/デジタル周辺機器を手掛けてこられましたが、近年の電源タップの市場動向やトレンドの変化について教えてください。
サンワサプライ 在宅勤務やハイブリッドワークの浸透により、「会社のデスク用」「自宅の机用」といった固定的な使い方を超え、機能性や利便性、省スペース性など、さまざまな場所で便利に使える電源タップの需要が高まっています。お客さま自身も「どこで、どのように使うか」という、より柔軟な視点で商品を選ばれていると感じます。
特にスマートフォンやタブレット端末をお持ちの方が多いため、USB充電機能を備え、複数台を急速充電できる電源タップが人気です。さらに、電気料金の高騰や省エネ意識の高まりから、スイッチで一括あるいは個別にオン/オフできるタイプや、消費電力を表示するモニター付きタイプなど、節電に貢献する製品も支持を集めています。
当社でもこうしたトレンドを意識し、USB急速充電ポートの搭載や、軽量でコンパクトな設計、使用量や電気料金を「見える化」する機能など、利用シーンを細かく想定した製品企画を進めています。
――これまで約1万3000アイテムもの多彩な製品を開発/販売されていますが、商品企画に顧客の声をどのように生かしているのでしょうか。
サンワサプライ 全国を回る営業担当や、販売店からの注文/問い合わせを受ける営業アシスタントが、お客さまのご要望やご意見を集約し、レポートにまとめて開発メンバーに共有しています。
また、自社通販サイト「サンワダイレクト」でのレビューも確認し、「ここが良かった」「こういう機能があれば便利」という声を次の商品づくりに反映しています。さらに、開発会議では営業や開発メンバー同士で情報を共有し、それを基に具体的な改善案を出し合い、商品化につなげています。
――そのような中で、Makuakeを活用しようと思われたきっかけは何でしょうか。
サンワサプライ 当社では長年、家電量販店や販売代理店など既存の販路を中心に展開してきましたが、そうした販路だけではリーチできない層に自社製品の価値をどう伝えるかが課題でした。
そこで期待したのが、Makuakeならではの「伝える力」です。これまでユーザーの「お悩み解決型」の商品を出しても、その良さを十分に伝え切れず埋もれてしまうことも多く、もっと多くの人の目に触れる機会を増やし、本当の価値を届けたいと考えました。また、普段接点のなかった層にアピールできるチャンスにもなると考え、Makuakeの活用を決めました。
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