鎖から蜘蛛の巣へ、「サプライウェブ」の世界が見えてきたサプライチェーンの新潮流「Logistics 4.0」と新たな事業機会(5)(2/3 ページ)

» 2019年12月23日 11時00分 公開

あらゆるプロセスがつながって、本来必要のないプロセスがなくなる

 サプライウェブの基本思想は、「あらゆるプロセスがつながること」と「本来必要のないプロセスがなくなること」にあります。

 第1に、チェーンからウェブへの進化の要点は、数多の調達先・納品先と自由につながれることにあります。その点からして、「あらゆるプロセスがつながること」は必然の要件といえます。

 特に重要なことは、川上から川下への垂直的なつながりだけではないということです。本連載の第3回目で、川下から川上に情報を伝達・共有する「デマンドチェーンマネジメント」の重要性を解説しましたが、サプライウェブの時代には、情報だけではなく、モノもさかのぼるようになります。XaaS(X as a Service)があらゆるモノに拡大することで、「買う」のではなく「利用する」だけのモノが増えるからです。「買う→捨てる」ではなく、「利用する→返す」がより一般化することで、川下と川上をつなぐリバースロジスティクスの重要性は段違いに高まるでしょう。

 企業間の垣根を越えた水平的なつながりも拡大します。より多くの調達先・納品先と自由につながるということは、入荷・出荷のロットが小さくなること、結果的に物流が非効率になることを意味するからです。トラックや倉庫といった物流アセットを他社と共用することで、規模の経済性を担保しようとする動きがますます広がるはずです。

 グローバルでのつながりの拡大も無視できません。本連載の第1回目で、物流の基本オペレーションは「人の介在をほとんど必要としないインフラ的機能になる」と述べました。つまり、インターネットのように、世界をつなぐ存在になるわけです。世界中のあらゆる場所にモノを送り届けられる/あらゆるモノを受け取れる時代の到来を想定すべきでしょう。

「本来必要のないプロセス」とは何か

 そして、サプライウェブがインターネットのような存在になるためには、「本来必要のないプロセスがなくなること」も重要です。インターネットは、誰しもが手間なくアクセスできるからこそ、これほどまでに普及したわけです。では、サプライウェブにとって、本来必要のない手間とは何でしょうか。発注、検品、在庫、棚卸は、その代表的プロセスといえます。

 必要とするモノを、必要なときに、必要な場所に、必要な量だけ確保したいがために、発注というプロセスがあります。あるいは、発注しないとモノが届かないという状況があるために、必要以上に注文してしまったり、欠品が生じてしまったりするわけです。サプライウェブ全体がつながっていて、常に自動的に補充・最適化されるのだとすれば、そのような手間や無駄はなくなります。富山の薬売りのような「置き薬商法」は、アナログ的な手法で発注レスを実現した例といえるでしょう。

 商品が注文通りに届いたかどうか、その数量や品質を確認するために、検品というプロセスがあります。調達先と納品先がつながっていて、商品の所在をリアルタイムで把握できるようになれば、少なくとも数量をチェックするための検品は不要になります。食品メーカーのキユーピーと、食品卸の加藤産業は、ASN(Advanced Shipping Notice:事前出荷通知)を活用することで検品レスを実現しました。画像認識技術の高度化や物流保険の適用拡大が進めば、品質検査の不要化も進むはずです。

 在庫は、注文に速やかに対応するための存在です。納品先やさらにその先のエンドユーザーの動向を把握し、注文を受ける数量を事前に推定できれば、在庫量を必要最小限に圧縮できます。マスカスタマイゼーションにより全てが受注生産に変わるとすれば、完成品の在庫はなくなるはずです。例えば、世界最大の商用車メーカーであるダイムラー(Daimler)は、アフターパーツを3Dプリンタでの生産に切り替えることで、在庫レスを実現しようとしています。こういった取り組みは、今後さまざまな業界に広がることが予想されます。

 最後に、棚卸ですが、在庫の所在を的確に把握できていれば、本来必要のない作業です。実際、WMS(Warehouse Management System:倉庫管理システム)の導入を通じて棚卸の頻度を減らすことに成功した企業は少なからず存在します。ウォルマート(Walmart)や千代田化工建設は、ドローンを活用することで棚卸作業を省人化しました。既に足元でレス化が進んでいることを考えると、棚卸は最も省略しやすいプロセスといえるかもしれません。

 前回、「次世代テクノロジーの戦略的な活用なくしてサプライチェーンマネジメントの進化はない」と記しましたが、それはすなわちサプライウェブへの進化を意味します。「あらゆるプロセスをつなげる技術」と、「本来必要のないプロセスをなくすことのできる技術」による革新と活用が拡大すれば、サプライウェブの世界が実現するはずです。

サプライウェブの基本思想 サプライウェブの基本思想は「あらゆるプロセスがつながること」と「本来必要のないプロセスがなくなること」(クリックで拡大)

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