AUTOSAR人材の育成に向けた提言(前編)「研修」で目指すものを一緒に見直しませんか?AUTOSARを使いこなす(11)(4/4 ページ)

» 2019年08月20日 10時00分 公開
[櫻井剛MONOist]
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逆方向の問題――必要な知識の過小評価

 何事にも「はじめて」は必ず存在します。そして、厳しい言い方になりますが、その時点で必要なスキルとして見えているものは「その時点で見えていること」でしかありません。当然ながら、地平線の先には、後から見えてくる必要なスキルなどが隠れていることもあります。ですから、「過不足ない研修内容」の判断を、「はじめて」の段階で行うことは極めて困難です(図2)。

図2 図2 視点が高くなれば、地平線の先に隠れていた「新たな課題」が見えてくる(連載第3回から再掲)(クリックで拡大)

 とは言っても、時間の制約などで取捨選択を迫られる場面はあるかもしれません。事実、「何とか短縮できないか?」とご相談いただくことも少なくありません。しかし、少なくとも筆者は標準的な内容でさえ「時間枠に何とか収める」ということで苦労していますし、取捨選択の議論の結論は「削れない」で終わることがほとんどです。おそらく、大抵のカリキュラムの設計者やトレーナーにとっても同じでしょう。

 問題は、削るための個別の議論の費用対効果です。1日または数日の研修のために、双方がこの手の議論に数時間を費やすことも少なくありません。果たしてこのことに本当に価値があるのでしょうか。もちろん、議論を拒み、切って捨てることもできなくはないのですが……(筆者にはその勇気はありません)。ただ、「これって、果たして研修を行う際に、個別に説明し説得すべきことなのか?」という疑念が募りますし、このような「意識合わせ」の時間を取る代わりに、研修前の予習サポートに当てた方がはるかに効果は高いのに……という思いもあります。

 筆者の判断が信頼されていないのが悪いと切り捨てるのは簡単でしょう。しかし、初めてお目にかかる方の誰からも最初から信頼されているべき、と求められても……それは無理な話です。

 ただ、もしも、「この役割であればこのようなスキルが必要で、このような内容の研修が必要」ということについてある程度の共通認識があったとしたらどうでしょうか。業界全体で「これは必須」という共通認識ができたら、費用対効果に疑問のある議論に費やされる時間の節約になるかもしれません。

次回に続く

 連載1回分の原稿ボリュームにとても収まりませんでしたので、前後編の2回に分けることになりました。次回の後編はあまり間をおかずに掲載しますので、今しばらくお待ちくださいませ。

 なお、この議論にご興味をお持ちの方は、よろしければ連載第10回の冒頭に掲載した筆者の連絡先までぜひご連絡ください。お声が集まれば、議論の場の設定を検討します。また、JASPAR会員の方で2019年8月の活動報告会の懇親会にご参加になるのであれば、その際には、「AUTOSAR標準化WG」のテーブルにお越しください。筆者がお待ちしておりますので、そこでお話させていただければと思います。

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